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G20サミットの経済テーマを展望する

2019/06/25

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サミットでも米中首脳会談でも期待できない米中対立の緩和

6月28日、29日に大阪で開かれるG20サミット(主要20カ国・地域首脳会談)では、世界経済にとって当面の大きなリスクである米中貿易戦争、米国の保護主義への対応が、議長国日本がリーダーシップを発揮すべき、経済面での最大の課題である。貿易紛争は2国間ではなく多国間の枠組みの中で解決を目指す、という多角的自由貿易の原則に米国を引き戻すことこそが、とりわけ議長国日本に、最も強く求められている。

しかし、日本がこの分野で成果を挙げることは難しいだろう。米国は、米中間での貿易協議は2国間の問題であり、G20サミットの議題ではない、との立場だろう。また、この問題では、多くの人の関心は、同時期に開催されると予想されている米中首脳会談の行方に払われよう。

ただし、ここでも議論の進展は期待できないのではないか。5月に米中貿易合意に失敗して以降、両国間の協議はほとんど進んでいないとみられる。中国に、政府補助金制度の大幅見直しを迫る米国の主張と、合意後は即座に追加関税を撤廃するとの中国の主張は、すれ違ったままだろう。両国が協議を継続する意志を確認できることが、米中首脳会談の最大の成果となるのではないか。

経常収支の不均衡議論を深める

G20サミットでの経済面での主な議題は、第1に、経常収支の不均衡問題、第2に、質の高いインフラ投資、第3に、国境を越えるデータ流通の国際ルールの3点となろう。第1、第2については、既にG20(主要20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議でも取り上げられており、その議論を発展させることになる。

G20財務大臣・中央銀行総裁会議の声明文では、「不均衡は依然として高水準かつ持続的であり」、「我々は、対外収支を評価するにあたっては、サービス貿易・所得収支も含む経常収支すべての構成要素に着目する必要があることに留意する」とされた。

ここには、世界の経常収支の不均衡問題というトランプ政権が強い関心を持つテーマを積極的に取り上げることで、米国への配慮を示したうえで、いずれは米国を2国間から多国間の貿易交渉の枠組みへと引き戻す狙いがあるのだろう。

トランプ大統領は、米国の巨額の貿易赤字は、貿易相手国の不公正な貿易慣行と不当な通貨安誘導策によってもたらされた、と思い込んでいる。そこで、2国間交渉を通じてそれぞれ相手国を強く攻撃する、という政策手法をとるのだ。

しかし、実際には、2国間での貿易不均衡は双方の貯蓄投資バランス、いわば需要と供給のバランスで生じている側面も大きい。米国の貿易赤字の拡大は、大型減税やインフラ投資の拡大など米国政府による財政拡張策が超過需要を生み出し、それを賄うために輸入が増加したことから生じている面がある。このように、米国の貿易赤字には、米国の政策運営にも大きな原因があることを、日本政府は米国側に認識させたいとを考えているのではないか。

そのうえで、各国がそれぞれのマクロ経済政策を調整することが、グローバルな経常収支の不均衡是正にとって重要、という結論に持ち込めば、米国の貿易問題を2国間から多国間の枠組みに引き戻すことが可能となる。実際には、トランプ大統領の考え方を変えさせるのは簡単ではないことから、今後も粘り強い働きかけが必要となろう。

さらに、貿易収支ではなく、経常収支に注目すべきというメッセージには、日本が自身の利益を意識した、隠された狙いもあるようにも思われる。

日本は巨額な経常黒字を抱えているが、貿易収支はほぼ均衡している状態だ。経常黒字の多くは、海外への投資から得られる投資収益収入から生み出されている。そこには、米国への直接投資、米国財務省証券の購入なども含まれている。つまり、米国が問題視している日本の経常黒字は、日本が米国経済に貢献している結果である、という側面があることを米国側に理解してもらい、日米貿易協議での対日批判をかわす狙いがあるのではないか。

サミットでは質の高いインフラ投資がテーマに

G20財務大臣・中央銀行総裁会議では、新興国でのインフラ建設に関して、資金借入れ国の返済能力に配慮することなどを求めた、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」が承認された。議長国である日本がこのテーマを取り上げた背景には、新興国に過剰債務問題を引き起こしているとされる中国の「一帯一路構想」を、米国と歩調を合わせて強く牽制する狙いがある。

この「質の高いインフラ投資」というテーマは、G20サミットでもさらに議論が深められるだろう。「質の高い」とは、言い換えれば「厳しい融資条件」のことである。新興国向けにあまりに厳しい融資条件では、新興国側が借り入れをすることが難しく、結果的に、インフラ整備が十分に進まないという面もある。この点も考慮に入れて、世界経済の発展に資するような新たな「インフラ投資」のルール作りを、G20サミットの場では議論して欲しいところだ。

また、インフラ投資の拡大には、別の狙いもあるのではないか。世界経済減速への対応では、各国の事情に応じて、必要なインフラ投資の拡大を日本が呼びかけることになる可能性があるだろう。それを背景に、「国土強靭化計画」など、日本国内でのインフラ投資の拡大を、先行き、一種の国際公約として正当化する狙いもあるのかもしれない。

データ流通の国際ルール作りを日本が主導

議長国日本が、G20サミットの経済テーマでの目玉とするのが、国境を越えたデータ流通の国際ルール作りだ。

2019年1月に、安倍首相はスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、国境を超えるデータ流通に関する国際ルール作りを提唱し、統一的なデータ管理の協議をG20サミットで始める(大阪トラック)よう呼びかけた。

医療や産業などの有益な匿名データは、国境をまたいで自由に行き来することが重要であるとする一方で、個人情報や知的財産、安全保障上の機密については慎重に保護することが必要だとしている。データの種類ごとに、異なるルールを定める、という考えを示している。

日本が国際ルール作りを提唱した背景には、データを国際間でより自由に流通させることが世界経済全体にプラスとなる、といった貿易自由化推進と共通する考え方があるが、しかし、それだけではない。データ流通分野での、日米欧による中国の牽制が狙いの一つにある。いわゆる中国のいわゆるデジタル保護主義、データ・ローカライゼーションへの対抗だろう。

中国政府は、サイバーセキュリティ法のもとで、中国国内で活動する外国企業が得た顧客情報などを国外に持ち出すことを禁じたり、プログラムの設計図にあたるソースコードの開示を要求したりしている。これらは、中国で活動する外国企業の情報を中国政府が不当に奪取するものだとして、米国などが強く批判してきた。

他方、他国から中国へのデータ移転の制限も意図されていよう。中国政府が海外で活動する中国企業を通じて、他国から重要な技術を不当に奪取していると米国は強く批判してきた。新たな国際ルールを作ることで、重要なデータが中国に流通することを防ぐことも意図されているのではないか。また、日本でも、国内消費者の商品購入履歴が、将来、アリペイなどを通じて中国に流出することが強く警戒されている。

ただし、中国封じ込めを意図したデータ流通の国際ルール作りには、中国は簡単には合意しないのではないか。総論賛成、各論反対の状況が続き、国際ルールの成立までにはなお時間を要しそうだ。

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