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6月短観は当面の金融・財政政策に影響を与えない

2019/07/01

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大企業製造業の景況は予想比下振れも悪化に歯止めか

7月1日に日本銀行が発表した「6月短観」で、大企業製造業の業況判断DIは「+7」と、前回の「+12」から2四半期連続の下落となった。これは、事前予想の平均値「+9」程度を下回るものだった。業種別には、金属製品などの素材業種と生産用機械、自動車などの加工業種の双方で悪化が目立っている。また、大企業製造業の需給判断、在庫判断も悪化した。2019年度の経常利益見通しも、大きく下方修正され、-8.1%となった。

しかし、業況判断DIの下落幅は-5と、前回の-7よりもやや小さい。また、先行き判断が横ばいにとどまっていることを踏まえると、製造業の悪化ペースは緩やかになってきているとの評価が可能である。またこの評価は、鉱工業生産統計と考え合わせた場合に、その妥当性はより高まるだろう。

先般発表された5月の鉱工業生産は前月比+2.3%で事前予想を大幅に上回る増加となった。この結果、1-3月期に前期比-2.5%と大幅に減少した生産は、4-6月期には再び増加に転じる可能性が高まっている。

非製造業の景況感安定が続く

他方、今回の短観統計を最も特徴づけるのは、大企業非製造業の業況判断DIの上振れだろう。同業況判断DIは前回比2ポイント上昇と、予想外に改善した。製造業の景況感が大幅に下落する中で、非製造業の景況感が安定を維持したのは、前回調査と同様であり、これが現在の国内経済情勢の特徴を示している。

通信費値下げの影響等がある通信業では、景況感が大幅に悪化した他、建設業、不動産産業でも景況感が悪化した。他方、宿泊・飲食サービス業、小売業など個人サービス関連では景況感が改善し、個人消費の底堅さを裏付けている。

過去の本格的な景気後退開始時には、製造業、非製造業ともに景況感が顕著に悪化する傾向が見られてきたことから、日本が仮に景気後退に陥ったとしても、それは、現状では、軽微で短期なものにとどまった可能性が高い。

また、今回の短観調査では、設備投資活動の安定ぶりも再確認された。全規模全産業の2019年度設備投資計画は、前回調査から+1.7%上方修正され、+2.3%となった。6月調査での設備投資計画の上方修正は、通常のパターンではあるが、その水準は、大企業と中小企業、製造業と非製造業のいずれでも、2000年から2018年の平均値を顕著に上回っている。

引き続き海外景気がリスク

しかし、消費増税の影響、貿易問題の影響、円高進行のリスクなどが懸念されてか、大企業非製造業の先行き判断DIは6ポイントの大幅下落となった。先行き見通しでは、製造業と非製造業がねじれる形だ。鉱工業生産統計でも、予測指数に基づくと7-9月期は再び減少に転じる可能性がある。こうした点から、一度持ち直した国内経済が再び悪化し、「2番底」の様相を示す可能性も残されている。

今後の国内経済を方向付けるのは、引き続き海外経済動向である。消費増税前の耐久消費財の駆け込みは、今のところ目立っていない。これは、税率引き上げ幅が2%と小幅であることが影響しているのではないか。そうであるとすれば、増税実施後の反動減も大きくはならないだろう。さらに、2兆円超の消費税対策も実施されることから、消費増税が国内経済を大きく悪化させるリスクは大きくないのではないか。

金融・財政政策には直接影響しない

一時は、今回の短観調査の結果が、10月の消費増税実施の是非の政府決定に大きな影響を与える、との見方をされた時期もあった。しかし現状では、消費増税先送りの観測はかなり低下している。さらに、今回の短観の調査結果も、「リーマンショック時並みの状況」を示している訳では当然なく、むしろ経済の安定を示唆する内容も少なくないことから、消費増税先送りという判断を後押しするものではない。

また、今回の短観が、日本銀行の当面の金融政策に与える影響も軽微だろう。日本銀行は、内外経済の大幅悪化、1ドル100円に近付く円高進行、それらを受けた政府の景気対策の大幅積み増しをきっかけに、追加緩和措置の実施を余儀なくされる事態を想定しているだろう。

しかし、実際の緩和実施は相当温存されるはずだ。7月にも見込まれる米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利引下げに追随する可能性も、当面は低いだろう。

内外経済情勢の下振れ、円高進行に際しては、日本銀行は、フォワードガイダンス(政策方針)の時間軸を延長することで対応し、当面のところは時間を稼ぐ可能性が高いだろう。

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