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イールドカーブコントロールは事実上放棄されるか

2019/08/05

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変動レンジ拡大は緩和措置か?

米国での長期金利低下の影響から、8月5日の国債市場において10年物金利は日本銀行がイールドカーブコントロールのもとで概ね下限としている-0.2%の水準に達した。

日銀は2018年7月に、10年国債利回りの許容変動レンジを、それ以前の「ゼロ%程度±0.1%」からおよそ2倍、つまり「ゼロ%程度±0.2%」程度へと拡大した。そのレンジの下限である−0.2%に10年国債利回りが接近してきたことは、日銀にとって、枠組み維持の観点から大きな懸念材料だ。

世界経済の減速が進み、米国でより大幅な利下げが予想される状況となれば、米国の10年国債利回りはさらに大きく低下するだろう。そうなれば、日銀は10年国債利回りの許容変動レンジの下限を守れなくなる可能性が高まる。

先週、雨宮副総裁が、市場の変動が大きくなれば、変動レンジの拡大の可能性もあり、それは追加緩和措置の一環、との主旨の説明をしていた。市場の動きを追認し、変動レンジの拡大を通じて長期金利の低下を容認することが追加緩和措置というのはおかしいのではないか。

他方、変動レンジの拡大という選択肢も実際には取りにくいと考えられる。仮に「ゼロ%程度±0.2%」程度を「ゼロ%程度±0.3%」と変動レンジを拡大しても、米国長期金利が一段と低下すれば、10年国債利回りは-0.3%の新たな下限に直ぐに達してしまう可能性がある。

また、変動レンジのさらなる拡大は、もはや国債の流動性を高める施策との説明は難しく、それは、10年国債利回りの低下を日本銀行が積極的に容認することになってしまう。これを副総裁は追加緩和措置の一環としているのかもしれないが、そもそも、イールドカーブコントロールの導入目的の一つは、2016年1月のマイナス金利政策決定後に進んだ長期、超長期の国債利回りの大幅低下が、年金、生命保険の運用難、そして将来の受給見通しの悪化を通じて消費者心理に悪影響を及ぼすことを回避することだったはずだ。この観点からも、変動レンジのさらなる拡大を日本銀行が実施することは難しいのではないか。

それよりも可能性が高い対応は、変動レンジの撤廃である。それでも、「ゼロ%程度」という方針を維持している限りは、イールドカーブコントロールという枠組みは維持され、またその運営方針も変化ない、と日本銀行は対外的には説明することができる。しかし、実際には、これはイールドカーブコントロールの事実上の放棄を意味するだろう。

イールドカーブコントロールが抱える本源的な矛盾

10年国債利回りの許容変動レンジの上限を守るのと比べて、下限を守るのは格段に難しい。10年国債利回りの上昇を抑えて上限を守る際には、指値オペと国債買入れ増額が有効な手段となる。これに対して、10年国債利回りの低下を抑えて下限を守る有効な手段はない。国債買入れ減額という措置が、どの程度利回りの低下に歯止めをかけるか、その効果は不確実だ。

海外の国債利回りが低下するなかで、国債買入れ減額を通じて、仮に日本の10年国債利回りの低下に一定程度歯止めをかけることができる場合には、それは内外金利差の縮小から円高を招いてしまう。まさに、これが現状である。

また、国債買入れ減額自体が、金融緩和の縮小、一種の金融引き締め策でもある。海外景気が悪化する局面で、日銀は金融引き締め策を実施し、それが円高・株安などを招いて国内景気を一層悪化させることになってしまうのである。これは、本来、金融政策に期待される機能、つまり、「景気・物価に対するマイナスのショックが生じた場合には、それを相殺するよう緩和措置を講じる」ことと、全く逆の政策を日銀が実施することになる。

イールドカーブコントロールは、こうした本源的に大きな矛盾を抱えた政策の枠組だ。足もとでは、それが顕在化しているのである。こうした点を踏まえると、イールドカーブコントロールは堅持すると表面的には説明しながらも、日本銀行は変動レンジを撤廃して、それを事実上放棄してしまうのではないか。

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