フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 米中報復関税の応酬再び

米中報復関税の応酬再び

2019/08/26

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

トランプ政権は中国経済との関係を解消していく考えか

先週末には、米中貿易戦争が一段と激化し、世界の金融市場に動揺が広まった。23日には中国が、750億ドル分の米国製品に追加関税を課すことを発表した。これは、米国が中国からの輸入品3,000億ドル分に関税を課すことへの報復措置だ。中国は、米国が対中関税を発動するのと同じ9月1日と12月15日の2段階に分けて、新たな関税措置を発動する。

この措置に対抗して、米トランプ政権は、向こう数カ月に対中関税を最大30%に引き上げる方針を示した。10月1日から、2,500億ドル相当の中国製品に対する追加関税率を現行の25%から30%に引き上げる。また、9月1日から発動予定の中国からの輸入品3,000億ドル分への新たな追加関税についても、税率を10%から15%へと引き上げる。米中間での追加関税の報復の応酬が、再び強まっている。

さらにトランプ大統領は、中国で事業を展開する米企業に対し、事業の移転を検討すべきと述べ、また、「われわれは中国を必要としていない。正直いって、いない方がはるかにいい」とツイッターに投稿したのである。これらの発言は、米中間でのサプライチェーンを分断し、両国間の経済関係を解消していく考えを示しているだろう。

トランプ大統領は、追加関税等の圧力を通じて、国有企業、政府補助金などに象徴される中国の国家資本主義という体制を変える米中合意を目指してきたが、それをあきらめつつあるのではないか。少なくとも、来年大統領選挙までに合意に至るという見通しが難しいと考えているのではないか。

中国側の大幅な譲歩を引き出すことで米中貿易合意に至れば、それはトランプ大統領にとっては大きな成果であり、大統領選挙での再選を後押しするだろう。しかし、それが難しい場合、米国側が譲歩する形で米中貿易合意という流れとなれば、政治的には大きな失点となりかねない。

そのため、早期の米中合意を目指すのではなく、対中強硬姿勢を維持あるいは強化しつつ、大統領選挙に突入していくとの戦略に、トランプ大統領は傾いているのかもしれない。今後も、対中追加関税率の小刻みな引き上げを通じて、対中強硬姿勢を国内にアピールし続けるのではないか。

FRBの金融政策にしわ寄せ

政治的にはそうした戦略が有効になるとしても、それは、経済的には米国の企業、家計に大きな犠牲を強いるものだ。そうした戦略のもと、米国経済が悪化すれば、それはトランプ大統領の再選を危うくする可能性もある。再選を目指すトランプ大統領は、対中強硬姿勢と米国経済の安定維持という相矛盾する課題を同時に達成することを目指している。

その実現のために、トランプ大統領にとって重要となるのが、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和策だ。金融緩和による金利低下、及びドル安を通じて、米中貿易戦争が経済にもたらす悪影響を緩和する戦略である。

FRBのパウエル議長は23日、つまり米中が共に関税率の引上げ方針を示した日に、ジャクソンホールでの講演で、必要なら刺激策を提供する用意があると述べた。その一方で、貿易を巡る不透明感が世界経済の見通しへのリスクを増大させているとの認識を示している。

パウエル議長の講演は、今後のFRBの金融政策について明確な方針を示す内容ではなかったが、今回の米中の追加関税率引き上げとそれに続く大幅な株価下落は、FRBが9月に0.25%の追加利下げを実施する可能性を高めたといえるだろう。23日の米国株価の大幅下落は、FRBの追加利下げを促すものであり、株式市場は催促相場の様相を強めている。

FRBの追加利下げ自体の効果よりも、それに促される米国の長期金利の低下が、自動車、住宅など金利に敏感な分野を刺激することが期待できるだろう。実際、米中対立が激化するなかでも、そうした効果に助けられて、しばらくの間は、米国経済は安定を維持する可能性を見ておきたい。

しかし、いずれは金利低下の効果が薄れ、その時点で、米国経済が顕著に減速する時期が来るのではないか。金融政策で、米中貿易戦争の悪影響を相殺することはできないのである。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ