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中国の中銀デジタル通貨と三つ巴の通貨覇権争い

2019/10/04

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中銀デジタル通貨を人民元国際化の起爆剤に

中国政府は、フェイスブックが主導する新デジタル通貨リブラの発行計画に触発されて、主要国では初めてとなる中銀デジタル通貨の発行準備を進めている。9月24日には、中国人民銀行の易綱・総裁が、初めてその発行計画について公に説明した。

発言内容の多くは人民銀行関係者らから既に明らかにされていたことであるが、重要なメッセージが2つあった。第1は、中銀デジタル通貨の発行準備は進んでいる一方、具体的な発行日程は未だ決めていないということだ。

米経済誌フォーブスは、11月11日の独身の日に発行を開始する、と以前報じていた。これに対して総裁は、「具体的なスケジュールはない」と述べ、また、「研究、試験、評価、リスク管理などがまだ必要だ」として、市場でくすぶる早期発行の観測を打ち消したのである。

重要なメッセージの第2は、中銀デジタル通貨の海外での利用拡大を明確に視野に入れていることを明らかにしたことだ。総裁は、「デジタル通貨の国境を越える使用が実現すれば、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金の取り締まり、タックスヘイブン対策など監督管理面の要求を満たさなければならない」と発言し、国境を越える利用拡大を前提にした議論を展開している。

米国との対立を強める中で、中国にとっての最大の弱みは、人民元の国際化の遅れである。対米貿易戦争の結果、中国の経常黒字は急速に縮小し、将来的には外貨準備不足に直面する可能性もある。その時点で、貿易、投資などの国際決済でドル建て比率が高いままだと、世界のドル決済を事実上牛耳っている米国が対中金融制裁を行うことで、中国の経済活動が一気に行き詰まってしまう。

人民元を含まない主要通貨バスケットで構成されるリブラの利用が世界で広がる前に、中国が独自の中銀デジタル通貨を用いて人民元建ての海外取引を拡大させ、人民元の国際化の起爆剤にする狙いがあるのだろう。

新たな国際通貨創設の主張

この点から、リブラと中国の中銀デジタル通貨の発行は、ドルと人民元の通貨覇権を巡る争い、という構図の中にあると言える。

ところが、リブラの発行計画と中国の中銀デジタル通貨の発行計画は、新たな通貨覇権争いを誘発し始めているのである。それは、主要通貨からなる新たな法定デジタル通貨の発行である。

ドルという一国の通貨の価値は潜在的には不安定であり、それに支えられた通貨システムが世界経済・金融の安定を損ねている面がある、との認識が増えている。特にトランプ政権がドル安誘導を狙って通貨価値を操作する意向を強める中、そうしたリスクは一段と高まっているだろう。そこで、主要国の金融当局が協力して、ドルと競合あるいはドルを代替する主要通貨のバスケットから構成される新たな世界法定デジタル通貨を作るべき、との主張が出てきたのである。

英イングランド銀行(中央銀行)のマーク・カーニー総裁は8月に、米カンザスシティ地区連銀が主催する年次経済シンポジウム、いわゆるジャクソンホール会合で、現在のドル支配体制のリスクを強調し、ドル体制と代替的な新たな通貨体制の構想を示した。それは、多くの国の支持を得たうえで、ドルと人民元を含む信頼できる通貨のバスケットに基づく新たな法定デジタル通貨がドルと競うというものだ。これは、「合成の覇権通貨」と呼ばれる。

リブラ計画で一気に複雑な通貨覇権争いの構図に

フェイスブックのプロジェクトに反対するフランス当局は、カーニー総裁が提案したこの路線に沿って「法定デジタル通貨」を検討すべきだと述べるなど、支持も次第に広がり始めている。

このように、リブラの発行計画は、中国での中銀デジタル通貨の発行計画を誘発し、ドルと人民元の通貨覇権争いの激化へ導いている。これに加えて、ドル一極体制の問題点を認識してきた米国以外の主要国では、ドルに代わる国際通貨制度の構築に向かう動きが誘発されているのである。

その結果、通貨覇権を巡る争いはドル、主要通貨バスケット、人民元、の三つ巴の様相を呈し始めている。さらに、ここに民間主導のデジタル通貨と法定デジデジタル通貨の間での覇権争いという要素も加わり、国際通貨を巡る議論はにわかに複雑化の度を増し始めたのである。

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