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ECBラガルド新体制がスタート

2019/11/01

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11月1日にクリスティ―ン・ラガルド前IMF(国際通貨基金)専務理事が、欧州中央銀行(ECB)の新総裁に就任した。その直前のフランスラジオ局のインタビューでラガルド氏は、ドイツとオランダに財政出動を強く呼びかけたことが注目された。

ラガルド氏は、「ユーロ圏地域は、通貨は統一されているが、財政政策では協調されていない。協調体制が不十分だ」と指摘した。さらに、ドイツとオランダを明確に名指しして、財政出動を求めたのである。両国が名指しされたのは、ともに財政黒字国であるためだ。昨年のドイツの財政黒字はGDP比2%、オランダは1.5%だった。

ラガルド新総裁は、そうした財政政策に自由度がある財政黒字国に対して、「なぜ財政黒字をインフラ投資、教育、イノベーションの促進に使わないのか」と批判的に語り、「努力が足りない」と一蹴している。

他方、前任のドラギ総裁が導入したマイナス金利政策については、それを擁護する姿勢を見せている。マイナス金利は雇用を生み出し、仮にそれが導入されていなかったら、ユーロ圏経済はもっと悪い状態だった、と説明している。

この財政出動については、前任のドラギ総裁も各国政府に要請していた。ドラギ総裁は、10月の政策理事会後に、「財政政策があれば、金融政策はより短期でゴールにたどり着く」と述べ、ドイツなどを念頭に景気対策としての財政出動を求めたのである。また、10月28日にフランクフルトのECB本部で開かれた退任式典でも、ドラギ総裁は、ドイツのメルケル首相らを前にして、低インフレから抜け出すには財政の力が必要だと改めて訴えた。

ドラギ総裁が9月の理事会で事前予想を大幅に上回る積極策を打ちだした背景には、金融政策としてはできる限りのことをやったとの姿勢を見せることで、各国政府にこうした財政出動を促すという狙いがあったのかもしれない。そうであれば、金融政策の効果を任期中にアピールし続けてきたドラギ総裁は、その任期最後に、金融政策の限界を認めたことになるだろう。そして、ラガルド新総裁がドイツとオランダを名指しして財政出動を求めたのも、金融緩和の限界を意識してのことではないか。

ところで、ラガルド新総裁が今後もドイツとオランダなど、特定の国を挙げつつ、その財政政策に注文をつける場合には、ECBは政治の介入をより受けやすくなるのではないか。金融政策決定においても、ECB内では各国の利害がぶつかりやすい。ドラギ総裁のもとでは、ユーロ圏の財政政策に口を出すことは、中央銀行総裁の権限を越えることであり、控えていたとみられる。財政出動を要請したのも、ほぼ退任直前のことだ。しかし、ラガルド新総裁が今後も財政政策に関するこうした発言を積極的に続ける場合には、ECBの金融政策も各国からの批判の対象となり、ECBが各国利害の調整という政治的な位置づけをより強めてしまう可能性もあるのではないか。

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