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政府が3年ぶりに経済対策策定へ

2019/11/06

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消費増税後の景気失速回避が狙い

安倍首相は、今週中に経済対策の取りまとめを指示する見込みだ。それは、年末の予算編成過程で議論される。経済対策が盛り込まれるのは、2019年度補正予算と2020年度本予算であるが、2019年度補正予算は、来年1月開会の通常国会の冒頭で提出される。その主な中身は、防災関連、日米貿易協定関連、消費増税関連の3つとなる。

度重なる台風による被害への対応では、今年度当初予算に計上済みの予備費を活用した災害復旧策が早期にまとめられる。そこには、台風で1,000億円超の被害が出ている農業・漁業分野への支援策が含まれる。また、台風19号で河川の堤防決壊が相次いだことなどを受けて、堤防やダムの防災機能を強化する措置も講じられよう。それらは、2019年度補正予算と2020年度本予算に盛り込まれる。

また、農産物の輸入関税引き下げを含む日米貿易協定の合意を受けて、国内の農業支援策や輸出拡大策なども盛り込まれる。さらに、消費税対策として実施されたポイント還元の原資の上積み計上も検討されている。

ポイント還元を受けられる店舗は、10月1日時点で約64万件と、対象店舗の3割強にあたる。消費者への1日あたりの平均還元額は、10億円超に達したという。政府は2019年度当初予算に政府が補助するポイント還元の予算を1,786億円計上したが、来年3月の年度末までに予算を使い切ってしまう可能性が出てきた。そこで、2019年度補正予算で上積みが検討されている。

経済対策はこうした主に3つの名目で検討、実施されるが、その背後には、消費増税後の景気失速を回避するという狙いがある。仮に景気が失速してしまえば、消費増税を決めた政府の責任が追及され、政治的失点となり、次回衆院選挙への悪影響も懸念されるためだ。

4~5兆円規模の対策は本当に必要か

今回の経済対策の規模は4~5兆円と報じられている。その結果、2020年度当初予算規模は、2年連続で100兆円超となる可能性が高い。

必要な防災対策などは当然講じるべきではあるが、上記3つのポイントを積み上げても、2019年度補正予算と2020年度本予算だけで4~5兆円という経済対策の規模はかなり過大、との印象が否めない。実際には、インフラ投資を中心に、景気失速を未然に防ぐ予防的措置がかなり含まれているのではないか。

こうした措置によって、まさに消費増税実施のタイミングで財政環境は一段と悪化する、という皮肉な結果になりそうである。経済対策に無駄な支出が含まれないかどうか、国会でしっかりとチェックして欲しい。

仮に5兆円規模の政府支出(公共投資と政府消費の合計)が実施された場合、内閣府の経済財政モデル(2018年度版)によると、1年間で実質GDPは0.43%押し上げられる計算となる。実際の支出は時間をかけて執行されるため、経済活動に与える影響は平準化され、それほど目立ったものとはならないだろう。同モデルを用いたシミュレーションによると、政府支出の増加は3四半期後以降の民間投資をむしろ押し下げる結果となる。いわゆる、政府支出が民間経済活動を阻害する、クラウディングアウトの傾向が明確に見られるのである。

現在の比較的安定した経済環境のもとでは、明確な景気刺激策は必要でない一方、この規模の支出増加は財政健全化を一段と遠ざけてしまう点が懸念されるところだ。

一時的な需要創出に終わる一方、財政健全化を後退させ、将来世代の負担増加、需要悪化の観測から中長期の成長期待を低下させてしまう財政拡張策を、安易に実施すべきではない。より長期の視点から、経済の潜在力を高め、人々の将来の生活向上期待を高める構造改革を、しっかりと進めておくことが何よりも重要だろう。

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