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FRBによる金融政策の枠組み見直しの議論は越年へ

2019/12/05

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長期の平均で物価目標の達成を目指す方針

米連準備制度理事会(FRB)は、年末をめどに金融政策の枠組みの見直しについて議論を進めてきたが、実際には年内に合意を得ることは難しく、議論は越年することが必至な情勢となってきた。

しかし、議論の背後にある問題意識については、FRB内で概ね共有されているように思われる。それは、米国で期待インフレ率が下振れしていることへの対応が必要だ、という点である。過去10年にわたる景気回復期間中に、FRBが重視するPCE(消費支出価格)コア指数の平均上昇率は+1.6%と、目標値の+2.0%に達していない。市場や家計、企業の期待インフレ率も概ねこの実勢値と同じ水準にあるとFRBは考えている。

一般に、期待インフレ率が安定していないと、金融政策の効果が削がれてしまう傾向がある。また、インフレ期待が下振れていくと、政策金利をゼロまで引下げた場合にも実質金利(名目金利-期待インフレ率)の水準が十分には下がらず、金融緩和の効果が低下してしまう。これは日本で見られた現象であり、FRBはいわゆる「日本化」を恐れているのである。

また、期待インフレ率がFRBの目標値である2%を下回っている理由として、FRBのインフレターゲティング政策が、目標値を中心に上下対称に運営されていない、との市場の認識がある、という点でもFRB内での意見は概ね揃っている。つまり、インフレ率が2%を下回っていても、景気回復を背景にそれが上昇傾向にあり、2%の水準に接近するような局面では、FRBは政策金利を引上げ、インフレ率の加速を回避しようとする。その結果、物価目標は実際のインフレ率の変動の上限(キャップ)に近い存在となってきたのである。

他方、景気が弱い局面ではインフレ率は2%を顕著に下回る傾向があることから、景気回復、後退局面を含む長めの期間の平均でみれば、インフレ率の実績値は目標値の2%を下回り、その結果、インフレ率の実績値の影響を受けやすい期待インフレ率も2%を下回る、と考えられている。

期待インフレ率を目標値の2%まで引き上げるには、景気回復、後退局面を含む長期のインフレ率の実績の平均値が2%になることを目指すとFRBが表明し、実際にそのように運用することが有効である、との見方は概ねFRB内で賛同を得ているように思える。

穴埋め戦略(catch up strategy)は上手くいくか

他方、最近では、そうした方針をより明確にすることで期待インフレ率への影響力を高めることを狙い、物価目標を変動させる案がFRB内で議論されている。景気減速局面でインフレ率の実績値が長らく目標値の2%を下回った場合には、目標値を2%から3%に引き上げるなどして、長期のインフレ率の実績の平均値が2%になることを目指すものだ。これは、「穴埋め戦略(catch up strategy)」と呼ばれている。

FRBのブレイナード理事は、インフレ率が過度に低い状況が一定期間続いた後は、同程度の期間、インフレ率が2%を超えることを容認するよう提案している。具体的には、インフレ率の実績値が5年間にわたり平均1.5%~2.0%で推移した場合には、その後の5年間は2.0%~2.5%を目指す、といった枠組みである。目標値をレンジで設定することによって柔軟性を確保する一方、目標達成期間を明示することで透明性を高め、政策の実効性を上げる狙いがあるのだろう。

ブレイナード理事はこのほかにも、政策金利が再びゼロ%に引き下げられた場合、FRBが国債利回りにそれぞれの上限を設定し、必要に応じて国債の買入れを行うことも提案している。

しかし、ブレイナード理事のこうした提案は、多くの賛同を得ていない模様だ。物価目標を変動させるという枠組みについては、一般には分かりにくいことや、金融政策の自由度が制約されてしまう点を問題視する向きもある。最終的には、「中長期的に2%の物価目標の達成を目指す」といった、柔軟な方針への修正に落ち着く可能性も出てきたように思われる。

ところで、望ましい物価上昇率は、潜在成長率など経済構造の変化によって常に変動するものであることから、目標値水準自体をより柔軟に捉え、必要に応じて見直す、といった姿勢が重要ではないかと筆者は考える。高過ぎる目標値に拘わり続ければ、過度な金融緩和が金融市場の歪みを拡大させるなどの弊害を生んでしまうためだ。これは、日本銀行や欧州中央銀行(ECB)など他の中央銀行にも共通して言えることだ。

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