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10月景気一致指数の悪化は本格景気後退を意味せず

2019/12/06

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一時的要因などで10月鉱工業生産は大幅に悪化

内閣府が6日に発表した10月の景気動向指数(速報値)で、一致指数は前月比-5.6ポイントと、2011年3月以来の大幅な落ち込みとなった。一致指数を構成する9系列のうち、速報段階で入手可能な7系列はすべて一致指数のマイナスに寄与した。これを踏まえた基調判断は、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」に3か月連続で据え置かれた。

一致指数の大幅悪化は、11月29日に公表された10月の鉱工業生産が前月比-4.2%と大幅に悪化した時点で、概ね予想されていたことだ。製造業部門に限れば、日本経済は景気後退局面にあると判断して良いだろう。これは、欧米など海外についても同様である。

10月の鉱工業生産が大幅に悪化し、さらに11月、12月と先行きの見通しも弱く、10-12月期の鉱工業生産は前期比で大幅に悪化することが見込まれる。その背景は必ずしも明らかではないが、大型台風による工場の被災が影響しているだろう。さらに、10月の消費税率引き上げ後の一時的な需要悪化見通しに基づく減産も影響しているだろう。これらは、いずれも一時的要因である。

他方で、10月に発表された日本銀行の短観でも示されていたように、非製造業の景況感は依然良好であり、その結果、国内経済が本格的に後退局面入りすることは引き続き回避されよう。将来的に、現時点が景気後退局面にあったと判断される可能性は強くは否定できないが、その場合でも、2012年の景気後退局面と同様に、不況感を伴わない比較的軽微なものだろう。

経済対策はGDPを0.8%押し上げる

仮に製造業の悪化が続けば、いずれその悪影響は本格的に非製造業に及び、経済全体が失速状態に陥ることになるだろう。しかし、実際には、そうした事態は回避され、年明け後には製造業の生産活動も緩やかに持ち直すと見ておきたい。

その理由として、まず、日本の製造業活動の先行指標となる、海外経済及び輸出環境の安定化が挙げられる。11月の中国の製造業景況感は大幅に改善し、景気底打ちを兆している。また、日本と同様に製造業は調整局面にある米国でも、クリスマス商戦で楽観的な見通しが強まっている。今年春先以降の長期金利の大幅低下は、年末から年明けの時期を中心に、自動車・住宅といった金利変動に敏感なセクターを中心に、米国の家計支出を刺激するだろう。

日本の7-9月期の輸出統計では、アジア向けを中心に輸出が持ち直す兆しが見られるが、今後は米国向けも緩やかに持ち直していくのではないか。

さらに、財政健全化の観点からその是非は厳しく問われるべきではあるものの、5日に政府が閣議決定した経済対策は、年明け後の日本経済を下支えするだろう。中央・地方政府が直接支出する国費の総額9兆円台半ば程度が、今回の経済対策の「真水部分」と考えられるが、仮に9.5兆円規模の政府支出(公共投資と政府消費の合計)が実施された場合、内閣府の経済財政モデル(2018年度版)によると、実質GDPは1年間で0.81%押し上げられる計算となる。日本の潜在成長率と同程度のかなりの景気浮揚効果が、2020年度を中心に発揮されることになるだろう。

世界経済は失速しにくい構造に変化

今年の内外経済を振り返ると、失速はなんとか回避され、予想以上の粘り腰を見せたとの印象がある。その理由としては、第1に米連邦準備制度理事会(FRB)による合計0.75%の政策金利引下げが、その2倍程度の幅で長期金利を低下させ、米国及び世界経済を支えていること、第2に、リーマンショック後に世界経済が構造変化を起こしてダイナミズムを失った結果、設備、在庫の過剰などが生じにくくなり、下方リスクへの抵抗感が強まったという点が挙げられるのではないか。

こうした中、世界経済が俄かに失速することが仮にあるとすれば、それは、低金利下で積み上がった金融市場の歪みが一気に調整することがきっかけではないか。それこそが、2020年の日本経済にとって最大のリスクだろう。

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