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BOEの緊急利下げ-Strong package

2020/03/11

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はじめに

イングランド銀行(BOE)は金融政策委員会(MPC)を臨時に開催し、50bpの利下げと貸出支援策の導入を決定したことを本日(3月11日)公表した。同時に、金融安定政策委員会(FPC)は自己資本比率規制(CCyB)の緩和も決定した。臨時に開催されたカーニー総裁の記者会見(ベイリー次期総裁も同席)の印象とともに内容を検討したい。

政策判断の背景

カーニー総裁は、声明文の冒頭を引用する形で、英国の企業や家計が、新型肺炎による一時的だが大きなショックに対応するのを支援することがBOEの役割であるとの考えを確認した。その上で、MPC、FPC、健全性規制委員会(PRC)の三つによる包括的対応(詳細は後述)によって、影響が長期化する事態を防ぐことの意義を強調した。

記者からは、3月MPC(26日に結果公表)との関係に関する質問が多数示されたのに対し、カーニー総裁は、BOEによる今回の対応は、本日(3月11日)に予定される財政刺激策の公表とタイミングを合わせたことを明らかにした。さらに、今後の経済指標を踏まえた上で、3月MPCでも政策対応を判断するとの考え方を示した。

また、複数の記者が世界金融危機との比較を質したのに対し、カーニー総裁は、前回は金融システムが問題の核心であったが、今回はそうではない点で大きく異なると指摘し、金融システムの頑健性が大きく高まっているだけに、今回は実体経済への影響を金融面から抑制することが期待できるとの考えを示した。

さらにカーニー総裁は、別の記者への回答として、サプライチェーンに影響が生じる点ではNo-deal Brexitと似ているが、今回の問題は影響の大きさが不透明であるとしても、No-deal Brexitのように長期に亘って影響を及ぼす訳ではないと見方を示した。

なお、声明文では国際協調の重要性を強調していたこともあり、一部の記者は、主要国で政策決定の内容やタイミングに違いがある点を指摘した。カーニー総裁は、G7等の会議に限らず、主要国の中央銀行の間で密接な意見交換を行っていることを強調したほか、今後は財政面でも政策協調が進むとの期待を表明した。

MPCによる利下げと貸出支援策の実行

今回のMPCでは、政策金利を50bp引き下げて0.25%にするとともに、貸出支援策(TFSME)の導入を決定した。

カーニー総裁は、これらをセットで行うことの意義について、低金利環境下では、政策金利を引き下げても預金金利の低下が抑制されやすいため、銀行の資金調達コストを直接的に引下げることで貸出金利への波及を促すことが必要と説明した。これは、Brexitの国民投票直後に導入された前回の貸出支援策(TFS)でも主張していた点である。

TFSMEは、金融機関に対して4年物の資金を供与するものであるが、その際の金利は政策金利をベースとしつつ、貸出増加に対するインセンティブが付されている。

つまり、2019年12月末から1年間のネットの貸出がプラスの場合は上乗せ金利はゼロだが、5%以内の減少の場合には0~25bpの上乗せ、5%を超える減少の場合は一律25bpの上乗せとなっている。ここでの貸出は、英国内の家計と企業、一部のノンバンクに対するものとされ、住宅貸付も対象に含まれるようだ。

また、金融機関がTFSMEによって借り入れることのできる金額には、中小企業向け貸出へのインセンティブが付されている。つまり、2019年末の貸出残高の5%をベースに、その後1年間のネット貸出額のうち、①中小企業向けは5倍、②それ以外は1倍をそれぞれ乗じた額が上限とされた。なお、TFSMEによるBOEからの資金の引出しは4月27日から来年4月末までの約1年間とされた。

カーニー総裁は、中小企業に対する銀行与信の維持が重要であるとの考えを強調したほか、前回のTFSの実績を踏まえると、今回のTFSMEは1000億ポンドの利用が見込まれるとした。また、モーゲージ貸出の1/3、中小企業向け貸出の3/4が各々変動金利であるとして、利下げの効果に期待を示した。

記者の質問は、TFSMEよりも、利下げ余地が25bpしか残っていないことや量的緩和を見送ったことへの言及が目立った。

これに対しカーニー総裁は、今回の政策決定が多面的で強力な内容を含む点や財政面からの対応も同時に予想される点を強調した。また、政策金利がゼロに達した後も、必要であれば全ての政策手段を行使する方針を確認した。

FPCによる自己資本比率規制の緩和

BOEでマクロプルーデンス政策を担うFPCも、CCyBを現在の1%から即時に0%に引下げ、少なくとも12か月間は引上げないことを決定した。

声明文は、金融システムの頑健性が高い点を確認しつつ、一時的なショックに直面した家計や企業が必要な与信を受けられる上での支障を除くことに主眼があるとし、今回の措置によって英国の銀行には1900億ポンドの貸出余力が生ずるとの推計を示した。

記者には効果を疑問視する向きもみられたが、カーニー総裁は、今年の12月末には2%に引上げる予定であっただけに大きな転換を意味する点を説明した上で、1900億ポンドは2019年のネットの企業向け貸出の13倍にも相当するとして効果を強調した。

最後に、金融機関の監督を担うPRCは、銀行がこれらの措置によって生じた自己資本と流動性の余力を経済活動の支援に適切に使用するよう期待を示したほか、PRAと連携して、銀行が配当やボーナスの増加による社外流出を増やすことを防止するとした。

政策対応の評価

3月MPCで対応をとることは予想されていたが、このタイミングでの対応は予想外であり、財政出動の決定とタイミングを合わせた点でもインパクトがあった。また、貸出支援策を組み合わせたことで、利下げの波及メカニズムを強化した点も合理性がある。

加えて、利下げだけでなくCCyBの引下げを組み合わせたことも、金融政策とマクロプルーデンス政策との連携を予てから重視しているBOEならではの対応と言える。

ただし、CCyBは、アナウンスメント効果はともかく、実際の効果には不透明な面も残る。また、調整の遅延による実質的なNo-deal Brexitへの対応余力の面でも、一段と難しくなったことは否めない。これらは、今日の会見では控えめな発言が目立ったベイリー次期総裁に宿題として残されることになる。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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