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7月FOMCのMinutes―Notable risk to financial system

2020/08/20

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はじめに

7月のFOMCは、実体経済や金融環境の改善の継続を歓迎しつつも、改善のペースが足許で鈍化しつつあることに懸念を示し、金融緩和の維持の重要性を確認した。また、金融システム安定に対するリスクについても、若干ながら警戒を強めた。

経済情勢の判断

FOMCメンバーは、経済活動が幾分改善したが、年初の水準を大きく下回っているとの認識を共有した。

中でも4月以降の個人消費の回復は力強く、自動車のような耐久財を含む財消費を中心に、以前の減少の半分を取り戻したと評価しつつも、航空、宿泊、飲食といったサービスの消費回復には時間を要するとの考えを示した。また、クレジットカードの使用や携帯電話の位置情報のような高頻度データが、7月入り後の消費回復の鈍化を示唆している点を指摘した。

一方、個人消費に比べて設備投資の回復が弱いとの認識を示し、企業は、先行きの不透明性に加えて、サプライチェーンの運営、企業活動の停止と再開、従業員の就労意欲といった面での課題にも直面していると指摘した。中小企業が特に厳しい状況にある点や、今後の政策支援に不透明性が残る点も踏まえ、設備投資は当面低調な状況が続くとの認識を示した。

この間、雇用も5~6月の改善は力強かったものの、その後は多くの地域でのCovid-19感染者の増加と企業活動の再開の遅延などを背景に回復が鈍化している点を指摘した。失業保険の受給者数も依然として高水準であるなど、労働市場の完全な回復には長期を要するとの見方を示した。

加えて、雇用の影響がソーシャルディスタンスの影響を最も深刻に受ける業種に従事する低所得者に集中しており、そうした職業がAfrican AmericanやHispanic、女性によって主として担われている点に懸念を示した。この点で、政府による既往の対策の重要性を確認するとともに、追加的な財政支援の必要性を指摘した。

物価に関しては、供給制約よりも需要の減退による影響が大きいため、ディスインフレの傾向があることを確認し、当面のインフレ率は目標を下回って推移するとの見方を示した。加えて、数名(a few)のメンバーは長期のインフレ期待が低下するリスクにも言及した。

金融市場と金融システム

執行部は、多くの主要な金融市場の機能が改善された状態で安定しているとの認識を示した。

中でも、米国債やAgency MBSの市場は危機前の状況に回復したほか、短期金融市場でのドル資金の調達環境も改善し、FRBによるレポの残高はゼロになり、海外中央銀行とのドルスワップの残高もピークの3分の1以下になったことを確認した。

この間、長期金利が幾分低下し、クレジットスプレッドも縮小した下で、投資適格債の起債や株式の新規発行が旺盛であったほか、レバレッジローンの実行額も回復するなど、金融環境は総じて改善したとの理解を示した。

もっとも、FRBの銀行貸出サーベイ(SLOOS)によれば、銀行は商工業ローンの与信を2005年以来となる引締め姿勢に転じており、高水準であった貸出残高の増加も、(予備的動機による面が大きかったとみられる)クレジットラインの利用額の減少によって、 6月単月では減少に転じたことを指摘した。

銀行による与信姿勢の慎重化は、商業不動産貸付や住宅ローン、消費者ローンといった領域でも、商工業ローンほどのタイトさではないとしても共通してみられる点も指摘されている。また、住宅ローンについては、融資実行能力の制約や事務コストの上昇などを背景に、MBSの利回りと貸出金利とのスプレッドが拡大している点にも懸念を示した。

もっとも、上記のようなクレジットスプレッドの縮小の下で、CMBSやABSの発行は増加を続けており、なかでも学生ローンや自動車ローンを裏付けとするABSの発行は危機前の水準を回復した点も確認し、資本市場経由での資金の流れが維持されているとの理解を示した。

一方、執行部は金融システム安定に対するリスクの評価をnotableに引き上げた。具体的には、空室率が上昇する下での商業不動産価格や、所得や収益が低下する下での家計や企業のレバレッジに調整のリスクがある点や、それに伴う銀行への影響を懸念材料として指摘し、FOMCメンバーも認識を共有した。

また、執行部は事業法人の信用格付の低下が継続しているほか、 5月のデフォルト件数が2009年以来の高水準となったことを指摘したほか、中小企業向けの銀行貸出の利払い遅延も2008年初以来の水準に達したことも指摘した。

政策判断

FOMCメンバーは、経済見通しに関する不透明性が極めて高いとの認識を確認した。その上で、Covid-19の感染者数の第二波の増加が生じれば、経済活動に長期的な影響を及ぼすとの懸念を示した。特に、①銀行の与信姿勢が一層慎重化することで企業や家計の資金調達に支障が生ずる、②家計や企業、地方政府に対する十分な財政支援が行われない、といったリスクに言及した。

こうした認識の下で、FOMCメンバーは金融緩和の現状維持を決定したが、今後に関しては、多くの(a number of)メンバーがフォワードガイダンスの明確化の必要性を指摘した。具体的には、 outcome-basedに対する言及が多く、インフレ率と失業率のいずれか、または両方、さらにはcalendar-basedとの組合わせが議論された。同時に多くの(many)メンバーが、資産買入れについても、緩和的な金融環境による景気回復の支持の観点から、考え方を明確化すべきと指摘した。

なお、FOMCメンバーはYCCについても議論し、殆ど(most)のメンバーは、フォワードガイダンスが高い信認を得ており、長期金利も低位であるとして追加的な意義が乏しいとの考えを示した。また、多く(many)のメンバーは、大量の国債買入れを余儀なくされるリスクやexitの条件設定とその共有の難しさを指摘した。このため、 YCCは選択肢の一つとして維持するが、現時点では必要でないとの整理がなされた。

今回のFOMCでは、「金融政策の長期目標と戦略」の改定の必要性についても議論しており、金融政策運営の見直しに関する議論も、主要な論点をほぼカバーしたものと推察される。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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