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5G関連でファーウェイ製品を完全に排除しない欧州

2020/01/31

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米国との外交関係よりも経済的利益を優先した英国

英国政府は1月28日に開いた国家安全保障会議(NSC)で、米国が完全排除を求めている中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)製品の5G(第5世代通信網)への使用を、限定的に容認する決定を下した。

通信設備の中核部分や、原子力や軍関連施設など高度なセキュリティが求められる分野でのファーウェイ製品の利用は禁止する。また、使用が認められる設備でも、ファーウェイ製品の比率は全体の35%以下に限定するとした。

英国政府は以前より、5G関連にファーウェイ製品を利用しても、セキュリティ上のリスクは制御可能であるとし、ファーウェイ製品の利用を全面的に禁じるよう求める米国側の要求を、受け入れない姿勢を見せてきた。

しかしその後、英国のEU(欧州連合)離脱が決まり、また米国寄りのジョンソン首相が就任したことで、英国は米国政府の外交関係により配慮した決定を最終的にはするのではないか、との見方も浮上していた。今回の英国の決定を受けて、トランプ政権からは「失望した」との声が出ている。他方、ジョンソン首相は、「肝心なのは消費者の利益だ」と強調しており、米国との外交関係よりも経済上の利益を優先したことを明らかにしている。

英国企業は既に5G関連の通信機器で、安価で比較的質の高いファーウェイ製品を多く導入している。これを他社製品へと置き換えた場合には、相当の追加コストがかかるうえ、5Gの整備がかなり遅れてしまう惧れがあると判断したのだろう。

EU諸国でも米国の要請を拒む動き

こうした事情は、EU諸国についても同様である。オックスフォード・エコノミクスは、ファーウェイを5Gネットワーク装備から排除する場合には、5G投資費用が最大で29%増え、GDPが英国で最大118億ドル、ドイツで最大138億ドル減少するとの分析結果を示している。

EUの欧州委員会も29日に、5Gに関する勧告を公表している。加盟国に対して、ネットワークの中核部分を念頭に、リスクのある業者を排除できる規定を整備するよう促した。他方で、やはり、米国が求めるファーウェイ製品の完全な排除は加盟国に求めなかったのである。勧告には強制力はなく、各国はこの勧告を受けて、各々自国の政策を決めた上で、6月までに欧州委員会に報告することが求められている。

現時点で5Gに関するEU各国の姿勢を見ると、フランスは、特定メーカーを排除しない方針を示しており、ドイツも排除しない方針としている。ドイツは最終的な結論はまだ出していないが、メルケル独首相は23日に、「安全のためには多様性が必要だ。1社を排除しても安全にはならないと思う」として、ファーウェイ製品の完全排除には明らかに否定的な考えを示している。

欧州地域で低下する米国の影響力

米国政府の要請をそのまま受け入れたのは、オーストラリアとニュージーランドだけである。ただし、日本政府は2018年12月に、情報通信機器の政府調達の際、サイバー攻撃など安全保障上のリスクを減らす運用とすることを申し合わせた。さらに、携帯事業者も通信インフラ設備に中国製の機器を採用しない方針であり、事実上、米国政府の要請を受け入れた形だ。

政府は、今の通常国会に、5G設備の開発や前倒しの導入を進める企業を支援する法案を提出する。その際に、支援対象となる基準にはセキュリティの高さが入るが、これも、中国製品の採用を排除する狙いがあるとみられている。また、支援策は、企業が、中国製品以外のより価格の高い製品の購入を強いられることへの補填の意味合いも感じられるところだ。

欧州での5G関連設備の購入の方針については、米国政府の要求受け入れを拒んだ英国が、欧州各国の姿勢を大きく方向づけたように思われる。EUでも、今後、ファーウェイ製品を排除しない方針が各国から正式に打ち出されていくだろう。

こうした流れは、今後始まる英国と米国との間での新たな自由貿易協定の議論、EUと米国との間での貿易協議で、米国政府がより厳しい条件を相手国に突き付けるという、一種の報復措置を招きやすいのではないか。

ただし、欧州での5G関連設備の購入を巡る今回の動きは、外交、安全保障、経済の各面で、欧州地域での米国の影響力が着実に低下していることを象徴的に示すものとも言えるだろう。そして、このことは、欧州地域への経済的な影響力を高めることを狙う中国にとっては、明らかに追い風である。

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