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年明け後のGDP持ち直しを台無しにする新型肺炎

2020/02/17

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10-12月期実質GDPは年率-6.3%の大幅減少

17日に内閣府が公表した、2019年10-12月期GDP統計(一次速報値)で、実質GDPは前期比-1.6%、年率換算-6.3%の大幅減少を記録した。輸出環境の弱さに加えて、昨年10月の消費税率引き上げ前の駆け込みの反動、台風の影響などにより、マイナス成長となることは事前に広く予想されていた。しかし事前予想の平均値は年率換算-3.8%程度であり、事前予想を大幅に下回る減少となった。ちなみに、前回消費税率引き上げ時の2014年4-6月期の実質GDPは、前期比-1.9%となったが、今回の下落幅はこれよりは幾分小さめだった。

内需の2つの柱である実質個人消費が前期比-2.9%、実質設備投資が同-3.7%と、ともに大幅マイナスとなったことが特徴的だ。特に設備投資の減少幅は予想外に大きく、輸出の弱さが国内設備投資にも波及したと解釈できるだろう。

他方、それ以前の過去4四半期間、実質成長率がプラスを維持してきたことは、経済の実態と比べればやや出来過ぎだった。今回の大幅マイナス成長は、そうした統計の歪みが反映された側面もあり、実態よりは弱く振れたものと考えられる。

それでも、10-12月期の成長率が大きく下振れたことは、2020年度の成長率が低めとなりやすいことを示唆していよう。仮に2020年1-3月期の実質成長率が前期比0%であった場合、2020年度の実質成長率は-0.5%となる計算だ。1-3月期以降は新型肺炎の悪影響が経済に及ぶことを踏まえれば、2020年度の成長率が5年ぶりにマイナスとなる可能性も想定しておくべきだろう。

サプライチェーンの問題はそれほど深刻ではないか

今年1-3月期のGDPに、新型肺炎の影響が色濃く表れることは必至である。日本経済が受ける影響のチャネルは、主に、①インバウンド需要の減少、②中国向け輸出の鈍化、③サプライチェーンの遮断による国内生産の停滞、の3点である。このうち重要なのは、①及び②、特に①であろう。

中国での工場閉鎖や物流の遮断の影響などから、国内自動車、電機機械メーカーを中心に、中国からの部品の調達に支障が生じ、日本での生産計画に既に悪影響が及んでいる。ただし、それによる経済全体への悪影響は、一部で懸念されるほどには大きくないのではないか。中国から調達している部品の中で、国内や他国から代替的に調達できないものが、それほど多くないと考えられるためだ。

こうした部品の多くは、中国に進出した日本企業がその生産に関与していると見られる。その場合、日本での代替生産は技術的に容易であろう。また、中国企業から調達している場合でも、日本やその他の国での代替生産が不可能な部品は限られるのではないか。自動車、電機機械の生産で、日本は中国に対して代替が容易でない部品や原材料を供給するサプライヤーであるが、その逆ではない。

さらに、サプライチェーンの遮断によって一時的に生産計画に狂いが生じても、需要の水準さえ維持されていれば、部品の代替調達で生産水準は早期にキャッチアップされやすい。

新型肺炎の影響で1-3月期の成長率は年率2%台半ば程度押し下げられる

1-3月期のGDP成長率を押し下げる要因としては、①インバウンド需要の減少、②中国向け輸出の鈍化、の方がより影響力が大きいはずだ。現時点で考えれば、①の要因は同期のGDPを0.5%程度押し下げ、中国経済減速による②中国向け輸出の鈍化の要因は、同期のGDPを0.1%程度押し下げると推察される。

年率換算値で見ると、新型肺炎の影響で1-3月期の成長率は2%台半ば程度押し下げられる、と現時点では見ておきたい。

新型肺炎の発生前の時点では、消費増税後の個人消費の持ち直し、米国及び中国向け輸出の回復などを原動力にして、1-3月期の実質GDPは高めの成長率が当初予想された。今回発表された10-12月の大幅マイナス成長の反動増の可能性も加味すれば、年率4~5%程度が同期の基調的な成長ペースではないか。新型肺炎の影響は、この基調的な成長の半分程度を台無しにする規模に達しよう。

それでも、1-3月期の実質GDPはプラス成長となる可能性が高いだろう。新型肺炎発生後も米国での個人消費関連指標は引き続き堅調である。新型肺炎の拡大が数か月程度で鎮静化すれば、日本経済が輸出主導で持ち直していくシナリオは維持されるだろう。その場合、振り返ってみれば、新型肺炎の影響で、国内経済の持ち直しの時期が、1四半期程度先送りされるにとどまろう。

新型肺炎の国内個人消費への影響に注視

他方、新型肺炎の拡大に数か月で歯止めが掛からない場合には、4-6月期のGDP成長率にも相応の悪影響が生じ、景気失速のリスクが高まっていこう。

今後注目しておきたいのは、国内個人消費への影響である。国内での新型肺炎の拡大は、感染経路が特定できないいわゆる「市中感染」のフェーズに入ってきた可能性が考えられる。これによって、国民が感染を強く警戒し、外出を極度に控えるようになる場合には、GDPの0.8%のインバインド需要に対して、GDPの56%を占める個人消費の活動が、顕著に落ち込む可能性が出てくる。その場合、日本経済は深い後退局面に陥るだろう。

現在は、政策対応によってそうした事態をなんとか回避できるかどうか、いわば瀬戸際状態にあると言えるのではないか。

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