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介護分野の深刻な人手不足にどう対応するか

2020/02/27

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全世代型社会保障検討会議が開催

政府は2月19日に、第6回全世代型社会保障検討会議を開催した。2019年9月に発足した同会議が開かれたのは、昨年末に中間報告をまとめて以来2カ月ぶりとなる。

中間報告でまとめ上げられたのは、主に年金制度改革と医療制度改革についてだ。年金制度改革については、中小企業等で働く約50万人の短時間労働者に厚生年金への加入の途を開くなどの施策を含む法案が、今国会に提出される。また医療保険制度については、75歳以上の原則1割の自己負担を、一定所得以上の人は2割に引き上げるという方針が固まった。どの程度の割合の高齢者までが2割負担となるか、いわゆる所得基準についての決定は先送りされており、今後議論が進められる。

いわば社会保障制度改革の後半戦に残された大きなテーマが、介護保険制度改革と少子化対策の2つであり、それらが今年6月頃にまとめられる最終報告に盛り込まれる。ただし、少子化対策については、内閣府が「少子化社会対策大綱」を今春にまとめてから本格的に議論が始められる見通しである。2019年の出生数が推計で86万4千人と過去最少となった、いわゆる「86万人ショック」への対応などが論点となる。

介護保険制度の抜本改革は先送りか

そこで当面は、介護保険制度改革が全世代型社会保障検討会議での議論の対象となる。

ただし、年金制度改革、医療制度改革と同様に、実際の議論は主に、厚生労働省が与党と調整しつつ進められていくとみられ、全世代型社会保障検討会議の議論は形式的な側面があることは否めない。

介護保険制度改革では、年金・医療制度改革と同様に、給付の抑制が大きな焦点であり、介護サービス利用時に2割自己負担となる対象者を拡大することが当初は検討されていた。しかし、その後、先送りされる方向で議論は進み始め、最終的には小粒な改革で終わりそうだ。その結果、介護保険財政が悪化すれば、それは将来世代の負担増となってしまう。

既に見たように、医療保険では、75歳以上の原則1割の自己負担を一定所得以上の人は2割に引き上げる方針が固まっている。介護サービスでも同様に2割自己負担となる対象者を拡大すれば、二重の負担になることから、国民からの反発を恐れてその導入を見送る方向になったとみられる。

介護保険制度の深刻な現状

介護保険制度は、介護が必要な高齢者を社会全体で支える目的で、2000年度に導入された。介護の必要性は「要支援1、2」、「要介護1~5」の7段階に分類され、それぞれに応じて介護保険支給限度額が定められている。通常は、その範囲内で、ケアマネジャーがケアプランを作成する。

費用は国、地方の公費と保険料、原則1割の利用者自己負担の3つで賄われる。40歳以上が保険制度に加入し、特定疾病で介護認定がなされる場合を除けば、原則65歳以上が介護サービスを受けられる。

制度導入から約20年が経過し、要介護認定者数は256万人(2000年度)から658万人(2018年度)へと2.6倍に増え、費用も2.9倍の10.4兆円(2018年度)超まで膨らんだ。

これを受けて、2015年からは一定所得(年収280万円)以上の受給者に2割負担を求め、さらに2018年には現役並みの受給者に3割負担を求める制度改正がなされた。それでも1割負担が利用者全体の90%超である。介護保険制度は3年に一度見直される規定となっており、次回が2021年となる。

2022年からは団塊の世代が75歳以上になり始め、介護サービスの需要は一段と高まる。次回の見直しでは、介護保険財政の一段の悪化への対応が喫緊の課題となるはずだが、抜本的な改革は残念ながら見送られる方向だ。

さらに、2040年には団塊ジュニアが、65歳以上の前期高齢者となる。2050年には65歳以上の高齢者1人を20歳~64歳の現役世代1.2人で支える、いわゆる「肩車型社会」を迎える。現役世代に過剰な負担を強いないためには、特に高所得の高齢者に更なる負担増を求め、高齢者間での所得再配分を促していくことが必要だろう。

介護現場での深刻な人手不足

財政環境の悪化に加えて、介護が抱える大きな問題の一つに、深刻な人手不足がある。介護関係職種での有効求人倍率は2018年度で3.95倍と、全職業平均の1.46倍を大幅に上回っている。

介護労働安定センターの調査(2018年)によると、従業員が不足している理由として、9割の事業所が「採用が困難であること」、2割の事業所が「離職率が高いこと」を挙げている。

また、介護労働者が仕事上の悩みとして挙げているのは、54%が「人手が足りない」、39%が「仕事内容の割に賃金が低い」である。賃金が低いことの不満に加えて、それゆえに従業員が不足しており、自身の業務に負荷が掛かっていることへの不満が高まっていることが示唆される。

政府は、2015年、2017年、2019年の介護報酬改定時に、「処遇改善加算」を拡充することで、介護職員の処遇改善を進めている。その結果、この5年程度の間に、全産業平均と介護職員の賃金の差は縮まってきている。それでも、2018年時点で、全産業平均(役職員を除く)の月次給与(賞与込み)が37.0万円であるのに対して、介護職員は28.3万円と依然23%程度低い水準にとどまっている。

こうした深刻な人手不足状態のもとでは、将来的には、介護保険制度の下で十分な質の介護サービスを提供できなくなるおそれがあるだろう。

そこでIT・デジタル技術を活用することで、介護サービスの生産性向上を図ることが検討されている。これは、人手不足対策である共に、介護サービスの質の向上にもつながるものだ。

冒頭で述べた第6回全世代型社会保障検討会議で主に議論されたのは、このテーマについてであった。介護保険財政の改善という最も重要なテーマを敢えて外したようにも見えるが、介護サービスの生産性向上も重要なテーマであることは確かである。

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