フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 市場の失望を招いたトランプ大統領の新型コロナ対策

市場の失望を招いたトランプ大統領の新型コロナ対策

2020/03/12

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

米国は欧州からの渡航を大幅に制限

トランプ大統領は日本時間12日(米国時間11日)午前10時から、新型コロナウイルス対策についての演説を行った。そこでは、欧州から米国へのすべての渡航を、向こう30日間停止する措置が発表された。英国は含まれないという。この措置は米国時間の13日から実施される。

トランプ政権は2月上旬に、過去14日以内に中国に滞在した外国人の入国を拒否した。今回は、その対象を欧州地域へと広げるものだ。トランプ大統領は、中国からの入国を制限したことが、新型コロナウイルスの米国内での拡大を遅らせた、と自賛している。

一方で、最近の米国内での感染拡大は、欧州からの旅行者によってもたらされたものだとして、今回の措置を決めたのである。欧州からの入国規制は、米国での観光客のさらなる減少や米国企業の活動にも甚大な影響を与える可能性がある。

経済対策は具体性を欠き市場は失望

他方、こうした新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるための措置と並んで、トランプ大統領は演説の中で、経済対策についても説明した。政府機関を通じて中小企業に低利融資を実施し、資金繰りを支援する考えを示した。そして、その実行に合わせて議会に対し、500億ドル(約5兆2500億円)の予算措置を求めた。

また、給与税の減税についても言及している。しかし、大規模な景気浮揚策となる給与税免除については、引き続き議会と協議すると述べるにとどめるなど、具体性を欠いた説明に終始した。

トランプ大統領は、給与税を年末まで免除する施策の実施を望んでいるとされる。しかし今回公表された経済対策は、金融市場が期待していた大規模かつ具体的な経済対策とは言えず、演説を受けて市場には大きな失望が生じたのである。演説内容への失望感から、12日の日経平均株価は、前場で千円を上回る急落となり、米国での政策対応に期待せざるを得ない東京市場の脆弱さを浮き彫りにした。

求められる市場との慎重なコミュニケーション

こうした市場の混乱は、経済対策を巡るトランプ大統領の市場とのコミュニケーションの稚拙さを反映している面があるだろう。米国で9日に米国株が大幅に下落したことを受けて、トランプ米大統領は、新型コロナウイルス対策としての包括的経済対策を、10日に記者会見で説明すると豪語した。しかし、実際には、10日の記者会見には姿を現さなかったのである。これは、経済対策を巡って、議会との調整、ホワイトハウス内での調整を短期間で進めることが無理であったからだろう。

トランプ大統領が混乱する市場への対応として、包括的な経済対策の詳細を10日に公表するとした時点では、それは、対策の準備を進めるホワイトハウスのスタッフには知らされていなかった、いわば彼らには寝耳に水の発表であったという。株価急落に動揺したトランプ大統領は、市場に対して、できない約束をしてしまったのである。その結果、市場は過大に期待を強めてしまった。

さらに、日本時間12日(米国時間11日)の記者会見でも、トランプ大統領は対策の詳細を発表することはできなかった。世界規模で金融市場が非常に不安定となっている局面では、過大な政策期待を市場に織り込ませると、その反動から市場を大きく混乱させかねない、という大きな教訓となっただろう。日本の政策当局にとっても、これを他山の石とすべきだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ