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リーマン・ショック時の既視感が溢れるFRBの危機対応

2020/03/19

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CP市場の動揺を受けFRBはCP買取りスキームを再開

米連邦準備制度理事会(FRB)は米国時間17日に、米企業が短期資金の調達のために発行するCP(コマーシャルペーパー)を買い入れる緊急措置を発動すると発表した。

これは「CPファンディング・ファシリティー(CPFF)」と呼ばれるスキームで、リーマン・ショック直後の2008年10月に導入され、2010年10月には廃止されていた。CP市場の混乱を受けて、9年半ぶりの復活となる。

FRBは米国時間15日に、実質ゼロ金利政策の導入と資産買入れの再開を決めたが、これはリーマン・ショック直後の対応そのものだ。そこにCP買入れスキームが加わったことで、FRBは再びリーマン・ショック後の危機対応を繰り返そうとしているようにも見える。まさに、既視感が溢れる危機対応となっているのである。

このCP買入れスキームでは、特別目的事業体(SPV)が、A1/P1格という高格付けの無担保CP、ABCP(資産担保CP)を直接発行体から買入れる。FRBはこのSPVに資金を貸し出すが、財務省がSPVに100億ドルを拠出することで、信用が補完される。買入れ規模は、最大で計1兆ドルだという。これは米国CP市場の規模と一致しており、必要ならばすべてのCPを買い取る準備があるという強いメッセージが込められている。

足もとでは、CP市場にかなりの動揺が見られていた。米国CP市場では、MMF(マネー・マーケット・ファンド)が主な買い手であるが、そのMMFが現金確保のために手持ちのCPの売却を進め、それがCPの金利を大きく押し上げていたのである。

CP市場は鬼門

こうして市場が動揺するなかでCPの発行が滞れば、企業の資金繰りに支障が生じてしまう。さらに、CPは自動車ローン、住宅ローンの原資ともなっており、CPの発行に支障が生じれば、企業だけではなく家計の経済活動も制限してしまうおそれがある。

リーマン・ショック時の経験を踏まえると、CPはまさに鬼門である。2008年のリーマン・ショックの前兆となった2007年8月のパリバ・ショックは、米国のMMFが、RMBS(住宅ローン担保証券)を担保として発行されたABCPの格下げを受けて、それを再び買入れる(ロールオーバー)ことをしなかったことがきっかけで起こった。MMFには、一定以上の格付けのCPにしか投資できないというルールがあったのである。そのため、ABCPで資金を調達していたファンド等は、にわかに資金繰りに窮することになった。

中央銀行は証券市場のリスクを引き受けていく

このように、CPの格下げやCP市場の混乱によってCPの発行が滞れば、企業や家計の経済活動に悪影響を与えるだけでなく、金融機関の経営を揺るがし、金融不安へとつながる可能性もあるだろう。

ところで、FRBが買入れの対象とする高格付けのCPは、主に大手企業が発行するものだ。今回の枠組みの下では、格付けの低いCP発行は対象でないため、中小企業の資金繰りを助けることにはならない。今後、中小企業が発行する格付けの低いCPで金利の上昇がより顕著となれば、FRBは、買入れ対象をより格付けの低いCPへと広げていくことを迫られるのではないか。

さらに、CPFFと同様の枠組みのもとで、FRBは社債の買入れを始める可能性もあるだろう。証券市場の機能が著しく低下する局面では、FRBは、事実上証券を直接買入れることで、市場からリスクを引き受けていくという、異例の危機対応を進めていくことを強いられるのではないか。そしてそれは、他の主要中央銀行についても同様だろう。

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