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米国で過去最大規模の景気対策が成立へ

2020/03/25

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大型景気対策で上院の民主・共和両党が合意

米国の上院は、大型景気対策法案で民主・共和両党が合意に達した。まもなく上院で可決される見込みである。同法案には景気浮揚と感染拡大阻止に向けた約2兆ドルの支出と減税が盛り込まれた。

合意内容の詳細は現時点ではまだ明らかになっていないが、民間企業、地方政府への支援、国民への小切手支給、雇用を守るための中小企業向け融資・支援、失業給付の拡充、税納付期限の延長などの施策が盛り込まれた。

このうち企業支援には9,000億ドルを充てられる。当初予定の5,000億ドルから大幅に積み増された。航空会社への支援には300億ドルの資金支援がなされる。小切手支給は、大人一人当たり最大1,200ドルとなる見込みだ。

この2兆ドルは、米国のGDPの約10%にあたる巨額な規模である。クドロー国家経済会議(NEC)委員長は、「単独の経済対策としては過去最大だ」と強調している。さらに、この景気対策に盛り込まれる法改正で「米連邦準備理事会(FRB)に新たに4兆ドルの資金供給能力が生まれ、対策の規模は合計で6兆ドルに達する」と主張している(以上、日本経済新聞による)。

下院の対応を注視

残された問題は、下院で過半数の議席を占める下院民主党の対応である。下院民主党は、今までは上院共和党案に反対し、独自法案の準備を進めていた。しかし、早期の景気対策実施が重要との立場から、民主党のペロシ下院議長は、上院共和党案を受け入れる方向ににわかに傾いた模様である。仮に、下院で民主党主導の別の法案が可決されれば、上院案と下院案の一本化に、なお相当の時間を費やす可能性が残されていた。

ペロシ議長は、法案が上院で可決された場合、同じ法案を下院で採決にかけ、さらに採決を発声投票方法にすれば、迅速に法案を成立させることができる、としている。発声投票方法とは、議員らがワシントンに集まらずに、各地でそれぞれ賛否を表明する方式のようだ。他方、この発声投票方法には下院共和党議員全員の全会一致同意が必要になるが、下院共和党は、上院案が全く修正されないことを条件に、発声投票方法に賛成するという姿勢のようである。

但し、下院民主党議員の中には上院法案を無修正の上、発声投票方法で採決することに反対する議員が複数いることも報じられている。最短では米国時間25日に同法案は上下両院で可決され、大統領の署名をもって発行するだろう。ただし、下院での採決を巡ってなお調整に手間どう余地は、多少残されているとみられる。

大型景気対策で気を許してはならない

いずれにしても、早晩、歴史的な規模の大型景気対策が発効する見込みである。リーマンショック時に、銀行救済措置を巡って議会が大きく紛糾していたことと比べると、今回は、比較的迅速に景気対策が成立に向かっている、という感が強い。また、FRBの政策についても、既に一度経験している施策をなぞっているためでもあるが、リーマンショック時よりも迅速な対応が出てきているとの印象だ。

しかしながら、新型コロナウイルスの感染封じ込めができなければ、経済の悪化はなお続き、この巨額の景気対策でも米国の景気を支えるには十分ではなくなる。この点から、感染封じ込めに政府は引き続き最大限注力することが重要であり、景気対策の成立で一息ついている暇はないはずだ。

他方、巨額の景気対策は米国の国債発行を一段と拡大させ、国債市場の信認低下やドルの信認低下をもたらすリスクも孕んでいる。そうしたリスクが顕在化してしまえば、大幅な金利上昇やドル安による輸入物価の上昇によって、景気対策の効果がかなり削がれてしまう可能性もあるだろう。

新型コロナウイルスの感染封じ込めに時間を要するなか、さらなる追加景気対策の策定が迫られる場合には、こうしたリスクがより顕在化しやすいだろう。この点からも、一日でも早い新型コロナウイルスの感染封じ込めが米政府にとって最優先課題であることは疑いがない。

そして、金融市場や金融機関の弱点を見出し、そこに対して随時支援を差し向けることで金融危機を回避するというFRBの取り組みは、まだ始まったばかりと言えるのではないか。

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