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投資ファンドの流動性危機を警戒する金融当局

2020/04/22

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投資家が投資ファンドから資金を引き揚げる動き

新型コロナウイルス問題による金融市場の混乱を受けて、投資家が投資ファンドから資金を引き揚げる、つまり現金化する動きが強まっている。十分な流動性を確保していない投資ファンドが、こうした投資家からの換金要求に応じられなくなるという流動性の問題が生じることがないかどうか、各国の金融当局が大きな懸念を持っている。

国際金融規制を通じて、銀行の資本、流動性、レバレッジ規制はかなり強化された。しかし、投資ファンドなど資産運用会社は、銀行と同様の規制は必要ないとして、そうした規制が自らの業界に及ぶことに抵抗を続けてきた。

世界各国・地域の証券監督当局や証券取引所等から構成されている国際的な機関である証券監督者国際機構(IOSCO)は2018年2月に、投資ファンドが流動性リスク管理を改善させるよう提言を発表している。当局は、投資ファンドなど運用機関の流動性リスク管理やレバレッジリスク管理の脆弱性が、金融市場の混乱や金融システムの不安定化につながることを警戒してきたが、実際に規制を強化する前に、そうした心配が現実のものになってしまったようだ。

迅速に投資家の換金要求に応えられない投資ファンドが多数発生

欧州の金融当局は、投資ファンドの運用担当者に対して、新型コロナウイルス問題を受けた金融市場の混乱が投資ファンドの流動性危機につながらないかどうか、投資家の換金要求に応えられるかどうか、等について多くの情報を提供するように求め始めている。

金融当局者が特に強く警戒しているのは、投資家がいつでも解約、現金化できるオープンエンド型のファンドである。ドイツとフランスの金融当局は、オープンエンド型のファンドからの資金流出(解約、現金化)について、毎日状況を報告することをファンドに求めている。そこには、換金率の報告も含まれている。多くのファンドが設立されているルクセンブルクとアイルランドの当局も、投資ファンドへの監視を強めた。

欧州の金融当局が、投資ファンドへの監視を強めるきっかけとなったのは、先月、金融市場が動揺したことを受けて、実際に投資家の資金が大量に投資ファンドから流出する一方、ファンドでは、投資家の換金要求に応えるために、ポートフォリオを見直す動きが際立ったためだ。

格付け会社フィッチによると、資産の合計が400億ドルに達する76の投資ファンドが、投資家からの換金要求に直ぐに応じることができなかったという。その中には、英国の不動産ファンドや北欧・ハイイールド債ファンドも含まれた。

ノンバンクにリスクが集中

国際通貨基金(IMF)も、市場環境が再び悪化すればファンドからの資金流出は加速するとし、ファンドに流動性管理の強化を指示するよう、金融当局に対して求めている。投資ファンドの運用担当者が、当局に対して流動性に関する報告を求められることは、かなりの業務的負担になるようだ。

投資ファンドが換金要求に応えるために債券の売却を迫られる局面では、投資ファンドが担っている債券のマーケット・メイク機能も大きく低下する可能性があり、それが債券市場の流動性を低下させることも考えられるところだ。

投資ファンドなどのノンバンクは、ハイイールド債、証券化商品を多く抱え、また銀行に代わって債券、為替などでのマーケット・メイク機能を担うようになった。他方で、流動性のリスク管理が脆弱であることから、投資ファンドのようなノンバンクに、欧米では金融面での大きなリスクが集中しているように思えてならない。


(参考資料)"EU regulators ramp up scrutiny of investment fund liquidity", Financial Times, April 20, 2020

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