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FRBは投資家救済策(TALF2.0)をいつ本格稼働させるか

2020/04/30

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消費者・企業の資金調達を助ける「TALF2.0」

4月28・29日に開かれた米連邦準備制度理事会(FOMC)では、金融政策の現状維持が決められた。経済・金融危機対応の武器(政策手段)は概ね揃ったことから、これからはそれを実行に移す局面に入ったのである。

そうした武器の一つで、比較的近い将来にその枠組みの詳細が示され、本格的に開始されると予想されているのが、3月にその創設が公表されたTALF(ターム物資産担保証券貸付ファシリティ:Term Asset-Backed Securities Loan Facility)である。これはリーマンショック(グローバル金融危機)後の2009年にも導入された枠組みであり、今回は「TALF2.0」と言える。

TALF2.0は、消費者及び企業向け債務を担保とするトリプルA格の証券化商品を取得する投資家に対して、その証券化商品を担保にして、FRBが低利の資金を融資する制度だ。その融資はノンリコース(責任財産限定)型であり、投資する証券化商品の価値を超えて、借り手に返済責任が及ばない。購入した証券化商品の価格が大幅に下落して、FRBからの借金だけが残る、という事態にならない。投資リスクがかなり抑制された枠組みである。

投資家は、ヘアカット率(担保価値の削減率)を差し引いた証券化商品の全価値に相当する金額まで融資を受けることができる。平均すると、証券化商品の価値の95%程度の融資を受けることができるとみられる。

この措置の狙いは、投資家に証券化商品を購入する原資を提供することで、消費者及び企業向け融資に基づく証券化商品の組成を促し、住宅ローン、学生ローン、クレジットカードローンなど消費者の資金調達及び企業の資金調達を助けることにある。

大きなリスクを抱えるノンバンク救済策の側面も

それに加えて、投資家支援の狙いもある。FRBが証券化商品購入の原資を低利で提供することで、投資家は利ザヤを稼ぐことができる。この措置が証券化商品市場全体の安定に寄与すれば、既に証券化商品を多く保有する投資家の損失を抑える、という経路からも投資家支援となる。

2009年にTALFが導入された際には、その主な狙いは、前者の消費者及び企業の資金調達支援にあった。しかし今回のTALF2.0では、それ以上に、後者の投資家支援が大きな狙いになっているだろう。

投資家には、銀行も一部含まれるだろうが、多くは、ヘッジファンド、ミューチュアルファンド、MMF、ソブリンウェルスファンド、プライベートエクイティ、保険会社といった非銀行金融機関、いわゆるノンバンク(あるいはシャドーバンク)である。

こうしたノンバンクが破綻、あるいは最終投資家からの解約に応じきれない流動性危機に見舞われ、運用資産の投げ売りを強いられることで金融市場が大きく混乱することを、欧米の金融当局らは強く警戒しているのである。TALF2.0を通じて投資家に利益をあげさせることで、そうしたリスクを軽減することができるだろう。この意味で、TALF2.0はノンバンク救済策とも言えるのではないか。

世論の反発がTALF2.0の制約に

しかし、そうした施策は、世論の強い反発を招く恐れがある。多くの個人が職を失い、また多くの中小・零細企業が破綻の危機に直面する中、投資家に金儲けをさせる政策は、批判を浴びやすいのは当然だ。リーマンショック時には、金融危機の原因を作った大手銀行を国民の税金で救済したことが、その後も長らく世間の批判の対象となったが、今回も同様のことが生じる恐れがある。

TALF2.0の枠組みでは、投資家に資金を提供するのはFRBであり、国民の税金が直接使われる訳ではない。ただし、この枠組みでは、担保となる証券化商品の価格が下落しても、FRBの財務を悪化させないように、米財務省が資本を投入している。証券化商品の価格が大幅に下落し、投入した資本分を超えて損失が生じれば、それは国民の負担となってしまうのである。

リーマンショック時に政府が銀行を救済したTARP(不良資産救済プログラム)の成立が簡単に進まなかった時のように、証券化商品の混乱が高まることが後押しにならないと、FRBがTALF2.0の枠組みを本格的に稼働させることへの国民の支持は十分に得られない可能性もあるだろう。

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