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揺らいだスウェーデン・モデルと感染対策の最適解

2020/06/10

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緊急事態宣言、「東京アラート」に一部で懐疑的な見方も

感染回避のため都民に慎重な対応を呼びかける東京都の「東京アラート」が導入されてから、9日で1週間が経過した。その効果については、一部に懐疑的な見方もある。

スマートフォンの位置情報に基づく人出は、この1週間(正式には6月1日と8日の15時台での比較)で、新宿駅は約1%、渋谷駅は約7%、六本木駅は約25%それぞれ増加していた。

しかし、5月25日の緊急事態宣言解除をきっかけに人出は増加傾向で推移しており、「東京アラート」がなければ、人出はもっと増えていたのかもしれない。他方、1日あたりの感染者数が再び頭打ちとなってきたことから、「東京アラート」が解除されるとの観測も浮上している。

政府の緊急事態宣言についても、果たして必要だったのかという批判的な意見が、なお少なからず聞かれる。緊急事態宣言については、その感染抑制効果に懐疑的というよりも、必要以上に経済活動を制限してしまったのではないか、という面からの否定的な意見が主流だ。こうした意見の延長線上には、個人は強制されなくても感染回避のために自ら合理的な行動をとるから、それに任せるのが良い、との考え方があるのではないか。

感染防止で個人は合理的な行動をとるか

政府が一部の業種に対して休業要請を決めた際には、店舗毎の感染リスクを判断した訳ではなく、あくまでも業種単位での判断であった。

しかし、実際の感染リスクは、個々の店舗毎に大きく異なっている。それをより正確に判断できるのは、政府ではなく、その店舗を熟知している顧客だ。顧客が、感染リスクが高いと自ら判断すれば、政府が休業要請を出さなくても、客足が遠のくことでその店舗は休業を余儀なくされる、あるいはより厳格な感染防止対策の実施を迫られるだろう。

このように感染対策を個人の行動に任せることで、政府が休業要請の対象を不必要に拡大させ、過度に経済活動に打撃を与えるリスクを減らすことができる。いわば市場メカニズムの活用である。

しかし、個人が常に合理的に行動すると考えるのは、現実的ではないだろう。いわゆる「合成の誤謬」もある。例えば、屋外であれば感染リスクが低いと判断して、個人が大量に公園に集まり、結果的に密集状況が生まれてしまうようなことである。また、個人の行動が、必ずしも科学的根拠に基づいているとも限らない。感染に関する多くのデータを入手でき、また多くの専門家の意見も聞くことができる政府の判断の方が、より合理的である場合も少なくないだろう。

こう考えると、個人の合理的な行動と政府による規制の双方ともに重要であるように感じられる。大切なのは、適切なバランスである。

スウェーデン・モデルは修正を迫られた

海外では、経済活動や個人の生活を、一時的には大きく制約するロックダウン(都市閉鎖)と呼ばれる厳しい規制措置を政府がとるのと、個人の感染回避の行動に任せ、政府は厳しい規制措置を講じないのと、どちらがより優れたモデルか、という議論がしばらくなされてきた。

欧米諸国の多くは前者である一方、後者の代表はスウェーデンである。スウェーデンは欧州域内からの入国を制限せず、ソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)も公的には規制せず、国民に自発的な協力を求めてきた。スウェーデンでの緩い規制措置は、成熟した国民のモデルとして、日本のメディアで好意的に取り上げられた時期もあった。

しかし、国内での感染者数の死亡者が増加したことで、こうしたスウェーデン・モデルは修正を迫られている。厳格なロックダウン(都市封鎖)は不要だと主張していた、スウェーデン政府のコロナ対策を率いる疫学者のテグネル氏は、6月3日に、「我々が取ってきた対策に改善の余地があるのは明らかだ。ウイルスをこれ以上広めないためにどこを封鎖すべきか、正確に見極めることが大切だ」と語り、軌道修正を口にした。

この発言のきっかけとなったのは、その前週に隣国のノルウェーとデンマークが相互に入国制限を解除した一方、新規感染者数が多いスウェーデンはその対象から除外されたことだ。いわば長年の盟友から、仲間外れにされてしまったのである。

第2波に備え最適モデルを模索せよ

それでも、スウェーデンがこれから他国に倣って厳格なロックダウン(都市封鎖)を導入しようと考えている訳ではない。目指しているのは、厳しい規制と従来型の緩い規制との中間のモデルであろう。

個人の自主的、合理的な行動を最大限尊重しつつ、必要な部分では、政府が方針を明確に示し、規制を導入していくという中間的なモデルに、多くの国では感染対策の最適解が存在するのではないか。

多くの人が警戒する感染の第2波に備えるという観点からは、日本でもそうした最適解を模索する必要がある。その際には、日本における過去数か月の経験に加えて、海外で導入された各種規制の成否や課題などをしっかりと検証することが必要だろう。第2波のリスクが相応にあるのであれば、残された時間をそうした検証に最大限有効に使う必要がある。

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