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国内生産と貿易が相乗的に縮小する新たな局面に

2020/06/17

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輸出の落ち込みは中国向けから欧米向けなどにシフト

財務省が6月17日に発表した5月分貿易統計では、輸出入ともに大幅に減少し、コロナショックによって貿易が急速に縮小している姿が裏付けられた。さらに輸入の急減は、輸出の悪化から生じた国内生産調整が、部品・原材料などの輸入削減に早くも繋がってきたことを示唆している。日本経済は、国内生産活動と貿易が連動して相乗的に縮小する、新たな局面へと入ってきた。

5月の輸出額は、前年同月比-28.3%と前月の同-21.9%から減少幅を拡大させ、リーマンショック後の2009年9月の同-30.6%以来の落ち込みとなった。主力輸出先である米国向けの輸出は同-50.6%とほぼ半減し、4月の同-37.8%から一層の落ち込みとなった。

これとは対称的に、5月の中国向け輸出は同-1.9%と4月の同-4.0%から下落幅を縮小させ、プラス転換に近付いている。数量指数で見ても、中国向けの急激な落ち込みは3月のみだ。コロナショックを受けた輸出の落ち込みは、当初の中国向けから、米国・欧州向けなどに移っている。さらに、南米、中東など新興国向け輸出も、急激に悪化している。

急速に高まる在庫過剰感と長引く生産調整

こうした中で注目されるのは、5月に輸入が急減したことだ。5月の輸入数量は前年比-14.9%と、4月の同+1.4%から一気に減少に転じた。対中貿易を見ると、コロナ問題を受けた中国での工場閉鎖の影響を受けて、まず2月に中国向け輸出数量が前年同月比-49.1%と急減し、その後、3月に輸出が大幅に減少した。

ところが、欧米地域向けでは、4月に輸出が急減した後、5月に輸入が急減している。中国向けとは順番が異なるのである。

5月の欧米地域からの輸入の急減は、現地での工場閉鎖にといった供給側の要因によるというよりも、日本側での需要の減少という需要側の要因を主に反映しているのではないか。つまり、輸出の悪化によって国内での在庫の過剰感が俄かに強まり、これを受けて国内製造業者が、生産調整、在庫調整に動いているのである。

4月の国内鉱工業生産は、前月比-9.8%と2桁近い大幅な落ち込みとなった。さらに予測指数では、5月も前月比-4.1%、経産省の補正値ではー5.7%と、連続して大幅な落ち込みが予想されている。こうした中、在庫率(在庫÷出荷)は、輸出の急激な悪化などを背景に3月に前月比+8.4%、4月に同+13.6%と急激に上昇している。在庫の過剰感が一気に高まっているのである。

これを受けて、国内では、本格的な生産・在庫調整が始まり、そのために、輸入品の急激な減少も引き起こされている。対中輸出が一時的に悪化した時と比べて格段に大きい生産、在庫の調整が、対欧米など他地域向けの輸出減少によって引き起こされたのである。これは、雇用の調整などを通じて、国内需要の悪化にも跳ね返ってくることを考えれば、調整はかなり尾を引くことが予想される。

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