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コロナショックは都市から地方への人の移動を加速させる

2020/06/19

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ニューヨークでは郊外のセカンドハウス需要が増加

コロナ問題をきっかけに、感染への警戒感とリモートワーク(遠隔勤務)の広がりの双方の要因に後押しされる形で、都市部から郊外、地方へと移住する動きが米国では強まっている。日本でも今後、同様の動きが強まっていくのではないか。

ニューヨーク市の郊外では、コロナショックで住宅市場の状況が一変している。ハドソン川沿いやニューヨーク州に接するコネチカット州の南東部に至るまで、多くの小さな町や村々で、住宅物件の引き合いが一気に強まっているという。3月にニューヨーク州が外出規制を始めた際には、比較的近い郊外で、数か月間のレンタルの物件への需要が高まったが、今や、レンタルではなく住宅購入のニーズが高まっている。それは、感染拡大第2波への警戒によって促されているのである。

ただし、ニューヨーク市郊外で住宅購入する人の多くは、マンハッタンなどでの住宅を売って郊外に移り住むのではなく、郊外でセカンドハウスを買い求めているのだという。感染の状況を見ながら、郊外と都市の間で自由に住まいを移動できるようにするためだろう。

その結果、マンハッタンなどでは、住宅物件が大量に売りに出され、住宅市況が大きく悪化するようなことは起きていないようだ。

リモートワーク定着で地方への移住

このように、高額所得者が多いニューヨーク市では、マンハッタンなどの住居に加えて郊外でセカンドハウスを買い求める動きが強まっているが、全米で見れば、都市部での物件を売って、郊外に新たな物件を買い求める動きの方がより一般的ではないか。

ツイッターやモバイル決済企業のスクエアなどに続いて、フェイスブックも一部の従業員にフルタイムの在宅勤務を許可した。5~10年以内に従業員の50%が在宅勤務に移行する見通しだという。マーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)によると、従業員の約75%が、在宅勤務が可能になった場合に別の都市に住まいを移すことに関心を示したという。

リモートワークが定着し、必ずしも通勤する必要がなくなった多くの労働者は、より家賃が低く、よりスペースが広い、また空気が良いといった好環境の郊外の住宅に移り住んでいる。在宅での勤務環境を整えるためにも、より広いスペースを確保する必要が生じている。

携帯電話経由で転居状況を追跡するデータ会社キュービックによると、4月のある時点では、米国人の転居ペースは前年の2倍で、5月半ばまで高い割合での転居が続いたという。

西海岸ではハイテク産業の若年層が郊外に移動か

人材確保の観点から、企業側でも郊外での労働者の居住を認める動きがある。シアトルやサンフランシスコ湾岸地帯(ベイエリア)など米西海岸では、不動産価格や生活費が高騰しているため、それが人材確保の妨げとなっている。そのためハイテク企業の間では、以前より、郊外で人材を求める、あるいは労働力を郊外へと拡散させる動きが出始めていた。コロナショックは、こうした動きを加速させる可能性があるだろう。アマゾン、グーグル、アップルは本社以外の拠点への投資も強化している。

米国勢調査局によると、昨年の持ち家比率は全体で64%超であった。しかしその中で、35歳未満の層では37%未満と、この年齢層の過去30年間の平均である39%を下回っている。不動産価格の高騰が、持ち家比率の上昇を妨げているのである。こうした若年層が、今後は郊外で新たに持家を取得するようになるのではないか。

ワシントン州シアトルやテキサス州オースティンなどでは、大都市からの人口流入を背景に、住宅需要が強まっている。こうした都市は、ハイテク企業の中心地にも近い。

雇用情勢が悪化するもとでは、一般的にはコストがかかる住居の移転は控えられる傾向があるが、ハイテク分野はコロナショックによる打撃が相対的に小さいことから、そうした傾向は強く見られないだろう。

日本でも地方移転で生活環境などに大きな変化

このように、ハイテク業種の若年層などを中心に、コロナショックをきっかけに、都市部から郊外、地方へと移住する動きが米国では強まっている。日本でも、同様の動きが今後生じるだろう。6月19日に都道府県をまたぐ移動の自粛要請が全面的に解除されたことも、そうした動きを後押しするのではないか。

郊外、地方への人の移住が進めば、それは都市と地方との不動産の相対価格に変化を生じさせるだろう。また、人口移動で新たに地方での需要が高まることは、様々な財・サービスで、都市と地方との間の相対価格を変化させる。物流の変化、オフィスや工場の移転も生じるだろう。

さらに、文化施設やエンターテイメント施設などの地方移転も促され、新たな地方文化が発展するきっかけとなるかもしれない。そうしたもとで、地方分権のあり方などの議論も、再度活性化しよう。

コロナショックは、働き方に限らず、我々の生活様式全般や文化、行政組織など、実に多方面で大きな構造変化を引き起こす契機となるのではないか。

(参考資料)
"Suburban Housing Market Heat Up&rdquo", Wall Street Journal, June 17, 2020
"When Workers Can Live Anywhere, Many Ask: Why Do I Live Here?", June 18, 2020
"Silicon Valley’s Next Big Office Idea: Work From Anywhere", May 19, 2020
"Remote Work Could Spark Housing Boom in Suburbs, Smaller Cities", June 1, 2020

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