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2022年危機を控え待ったなしの医療保険制度改革

2020/06/23

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医療保険制度改革議論の先送りはコロナ問題下の消費抑制を一層高める

新型コロナ問題で2月以降開催が見送られていた政府の「全世代型社会保障検討会議」が、5月下旬に再開された。当面の最大の課題は、医療保険制度改革である。しかし、新型コロナ問題の影響もあり、スケジュールはかなり後ずれしている。

医療保険制度改革については、当初は、今年夏までに「最終報告」を取りまとめる予定だったが、新型コロナ問題の影響などから、年末まで先送りされることが既に決まっている。

一方、7月には「中間報告」が策定されるが、そこには医療保険制度改革の最大の焦点となっている後期高齢者である75歳以上の窓口負担割合の2割化、などの方針は盛り込まれず、内容は新型コロナ問題対策に集中する見通しだ。

具体的には、マスクや消毒液など衛生用品の確保や換気設備の設置などの支援、オンライン診療・面会や運動アプリなどの非接触サービスの利用を促進するため、介護施設や医療機関などでのタブレットやWifiなどの導入支援、等が7月の中間報告に盛り込まれるとみられる。

これらは喫緊の課題であることは確かだ。ただし、医療保険の財政を健全化させるための医療保険制度改革の議論も、同時にしっかりと進めていかなければ、将来の制度の安定的運営や追加負担に対する個人の不安を高めることになり、コロナ問題下での消費抑制傾向を一層高めてしまうことにもなるだろう。

コロナ問題下で負担増加の議論はさらに先送り

医療保険制度改革では、当初は、75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担を現在の1割から2割へと引き上げる案に加えて、すべての病院で受診時に100円など一定額を負担する制度、いわゆる「ワンコイン負担」の新設なども議論されていた。

しかし自民党の支持団体である日本医師会が患者の負担増に反対したことなどから、当初の改革案は大きく修正を余儀なくされたのである。そして、すべての病院で一律に負担するワンコイン負担制度の導入は、議論から落ちてしまった。

他方、昨年年末の全世代型社会保障検討会議では、民間メンバーから75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担を現在の1割から2割へと引き上げる案に賛成が集まった。ただし、2割負担となる所得の基準については先送りされたのである。

どの水準の所得層から2割負担とするかによって、対象者から強い反発が出てくる可能性があり、それは政治的にはクリティカルな問題だ。さらに新型コロナ問題の影響で経済が悪化する中、国民に追加負担を求める議論は進めにくい環境になっている。その結果、所得基準の議論は、年末まで実に1年間も先送りされる可能性が出てきている。

迫りくる「2022年危機」対応の最後の機会

抜本的な医療保険制度改革は、待ったなしの課題である。2022年度には、団塊の世代が75歳の後期高齢者に入り始めることで、現行制度の下では給付総額は一気に高まることになる。これは「2022年危機」とも呼ばれている。

また、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となる。これは「2025年問題」とされる。さらに、2040年以降は、保険料支払いで制度を支える現役世代が大きく減少を始める「2040年問題」が待ち構えている。

「2022年危機」にしっかりと対応するには、今回が最後の機会であり、それを逃してはならないだろう。

一方、2割負担の実施が決まっても、国民からの反発を恐れて、所得基準をかなり高めに設定して対象者を絞れば、医療保険の財政改善効果は限られ、見かけだけの改革に終わってしまう。

資産も考慮に入れた「応能主義」適用を

所得水準を基準に後期高齢者の医療費の窓口負担を決めることも、再考の余地があるのではないか。所得水準が低くても、資産を多く持っている高齢者は少なくないためである。所得のみならず資産も考慮に入れた「応能主義」を適用していくことが、医療保険制度に限らず、社会保障制度全般で重要なことではないか。

所得、資産の双方を考慮して、支払い能力のある後期高齢者に医療費の窓口負担をより求めて行けば、患者が負担増加によって必要な診察を控えるといった、一部で指摘されるような弊害は生じないのではないか。

他方で、そうした改革が、医療保険制度の財政環境の改善につながれば、制度の安定性は高まり、個人が将来不安から消費を過度に抑えるようなリスクも低下しよう。それは、重要なコロナ対策の一環ともなるのである。

こうした点も踏まえて、政府、全世代型社会保障検討会議には、問題を先送りすることなく、「2025年問題」への対応を踏まえた抜本的な医療保険制度改革の具体策を早急にまとめて欲しい。

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