フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 難航する途上国債務問題へのG20の対応

難航する途上国債務問題へのG20の対応

2020/07/27

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

G20は4月に最貧国の年内債務返済猶予の方針を決めた

最貧国を中心に、新興国・途上国の対外債務問題が日々深刻さを増している。そうした中、主要国による支援体制は遅れており、それが、新興国・途上国の国債の価格下落などを通じて、世界の金融市場の潜在的な不安定要因となっている。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制することの大きな障害ともなっているのである。

G20(主要20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議は、今年4月に、重い債務負担に苦しむ途上国に対して、2020年末までに支払期限を迎える債務の元本や利子の返済猶予をする方針を決めた。その後、4年間で債務を返済することになる。一方、債務の削減はなされない。

アフリカ南部などの最貧国が、この返済猶予の主な対象となる。1人あたり国民総所得(GNI)が1,175ドルを超えないなどの世界銀行の定める最貧国基準に照らすと、対象国は76か国あり、その5割をアフリカが占める。特にジンバブエやガーナなど、サハラ以南のサブサハラ諸国が多い。

世界銀行によると、最貧国の対外債務は約1,500億ドル(2018年時点)に達している。その規模は、5年間で約4割も増加した。

途上国債務問題への主導的な対応はパリクラブからG20へ

途上国債務問題への債権国の対応で、従来は主要な役割を果たしてきたのがパリクラブだ。この組織は、1956年にアルゼンチンの対外債務の繰延を話し合うため、債権国である先進諸国がパリに集まったのが始まりである。債務国への援助、経済協力を目的としたものではなく、債務国の債務返済の負担を軽減させ、返済しやすい条件への変更(リスケ)を議論する場である。

1980年代に入ると、パリクラブのもとで累積債務問題に直面したアフリカ、中南米諸国を中心に、返済条件の変更が実施された。冷戦終結後の1991年には、パリクラブが最貧国の債務を5割削減した例もある。この際には、最貧国の民主化を促すなどの狙いがあったのだ。

ところが近年は、途上国向け融資で中国の存在感が急速に高まっている。米ジョンズ・ホプキンス大の調べによると、中国はアフリカ諸国(最貧国以外も含む)に対して、2016年に300億ドル超の融資を実施している。

そこで、今回の最貧国の債務問題への対応では、先進国によるパリクラブではなく、中国を含むG20が主導的な役割を果たしているのである。

米中対立が債務問題への対応にも影を落とす

G20が最貧国の対外債務の返済を今年の年末まで猶予する方針を4月に決めた後も、最貧国を含む世界経済の情勢は一段と悪化してしまった。さらに、新型コロナウイルスは、最貧国を含む新興国・途上国へと拡大を続けている。こうした情勢下で、さらに踏み込んだ最貧国債務問題への対応が必要な状況となっているのである。

7月18日に開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議では、最貧国の対外債務の返済のさらなる延長が議論された。声明文には、以下のような文言(抜粋)が盛り込まれた。

「2020年7月18日現在、42か国が債務返済猶予を要請しており、猶予される2020年中の債務返済額は53億ドルと推定される。2020年下半期に、債務返済猶予の延長の可能性を検討する」

債務返済猶予の期間延長が決まらなかったことには、中国が深く関わっていると見られる。中国は、最貧国の対外債務の返済を今年末まで猶予するという4月のG20で決まった方針を、十分に遵守していない、と批判されている。

また、中国には、特定国を優遇するような不透明な債務返済条件の見直しなどを実施している、との批判もある。

中国の融資先には、中国の国家戦略である「一帯一路構想」の参加国向けが多い。こうした国々への影響力を高める狙いから、債務返済条件の見直しなどでは、G20の基準に沿った対応をすることへの抵抗が中国にあるものと考えられる。こうした点が、最貧国の債務問題へのさらなる対応で、G20の足並みが揃わない背景となっている。

中国と米国を中心とする先進国との対立が、このように、最貧国の対外債務問題への対応にも影を落としているのである。

返済猶予を躊躇う最貧国

最貧国の対外債務問題への対応では、最貧国側の対応の鈍さが、問題解決の障害となっている点も見逃すことはできない。世界銀行の推計によると、債務返済猶予の対象となる73か国のすべてが猶予措置を受ける場合には、合計で115億ドル(約1兆2,000億円)の返済が、年明け以降に繰り延べられることになる。

しかしG20の声明文で示されたように、現時点での適用の申請は未だ42か国にとどまっているのである。申請していない国々には、ガーナやハイチ、ケニアなど過剰債務の「高リスク」国が含まれている。こうした国々は、返済猶予措置の適用を受けることによって国の評価が下がる、いわゆるスティグマ(汚名)を警戒しているのである。またそれが、将来的に新たな公的、民間債務をより困難にするとの懸念もあるのだろう。

しかし、返済猶予措置の適用を躊躇っているうちに、デフォルト(債務返済不能)に陥ってしまえば、格付機関からの格付けも下がり、将来の資金調達にはより甚大な悪影響が及ぶだろう。

最貧国が債務返済猶予の申請を実施しやすくなるような環境整備も、今後はG20の大きな課題となる。

格下げのリスクも障害に

一部の格付機関が、公的債務の返済猶予を格付け変更の事由とする方針であることも、最貧国が債務返済猶予の申請を躊躇う理由となり、また、G20が呼びかける民間債務の返済猶予など返済条件変更の妨げとなっている。

米格付会社ムーディーズは、G20による債務返済の猶予は、民間債権者にリスクをもたらすとして、実際に5か国の格付けを引き下げる方向で見直す考えを示した。それは、エチオピア、パキスタン、カメルーン、セネガル、コートジボワールの5か国であり、いずれもG20が合意した年内の返済猶予措置の適用を申請している国々だ。

G20は民間債権者に対しても同等の救済措置、つまり年内の債務返済猶予を求めているため、最貧国がG20による債務返済猶予措置を受ければ、その国債を保有する民間債権者との再交渉へとつながり、それはデフォルトにあたる、というのが格下げを検討しているムーディーズの見解だ。つまり、G20による債務返済猶予措置を受ければ、デフォルトのリスクが高まる、との考えなのである。

これに対して国連は、G20による債務返済の猶予は、各国の債務の持続可能性を高め、むしろ信用力を高めるものであることから、格下げの根拠とはならないとムーディーズを強く批判している。

債務返済猶予でジレンマ

G20は、民間債権者にも債務返済の猶予を求めているが、この猶予措置は対象国に民間債権者との債務再編交渉を義務付けるものではない、という点を6月に明確にした。それ以降、G20による債務返済の猶予への最貧国の申請は加速したという。G20による債務返済の猶予を進めようとすれば、民間債権者による債務返済猶予が進まなくなるという、ジレンマが生じているのである。

このように、最貧国の債務問題の解決には、様々な障害が立ちはだかっており、現状では対応が十分に進んでいない。しかし、そうしている間にも、最貧国の経済情勢、財政環境は悪化の一途を辿っている。今後、最貧国のデフォルトが頻発する事態となれば、それは世界の金融市場の混乱の要因となり、世界経済の新たな重しとなろう。その結果、地球レベルでの新型コロナウイルスの感染拡大の抑制は、一層困難なものとなってしまう。

(参考資料)
"Moody’s clashes with UN over G20 debt-relief drive", Financial Times, July 22, 2020
「G20、途上国債務の返済猶予、1~5年検討、アフリカなど1000億円超」、日本経済新聞、2020年4月11日

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn