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新興国・途上国の財政悪化とデフォルトのリスク

2020/07/28

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悪化を続ける新興国・途上国の財政環境

7月18日に開かれたG20(主要20か国・地域)での新興国・途上国への対応が、最貧国の対外債務問題に集中する中、中所得国の財政悪化問題が置き去りにされている感がある。

世界銀行が今年6月に発表した統計では、新興国・途上国政府が打ち出した新型コロナウイルス対策の財政支出の規模は、平均でGDPの5.4%に上った。インド、マレーシア、ポーランド、カタール、南アフリカ、タイなどでは、その比率は10%を超えている。

新興国・途上国では、経済の悪化による税収の落ち込みと財政支出の拡大の双方が重なり、財政環境の急速な悪化につながっている。新型コロナウイルス問題による打撃が大きい観光業に経済が依存する比率が高い国、天然資源への依存度が高い国が、とりわけ厳しい財政環境に直面する傾向が見られている。

他方で、経済対策や保健医療関連の支出を抑制して、財政再建に乗り出すことは、どこの国でも国民からの理解を得られそうにないのが現状である。

海外資金調達による問題先送り

財政赤字の拡大、政府債務の増加を助けているのが、海外からの資金調達である。国際金融協会(IIF)によると、金融市場が動揺した今年3月には、新興国・途上国の債券市場から335億ドルの資金が流出した。しかしその後、新興国・途上国の政府機関は、4月から7月までに国際債券市場で約900億ドルの資金を調達したのである。それを助けたのは、主要国の中央銀行による積極的な金融緩和策による金融市場の環境改善だ。そのもとで、新興国・途上国の政府は、国債発行を通じて海外から大量の資金を調達できた。

しかし、主要国の中央銀行による積極的な金融緩和策は、新興国・途上国の財政危機のリスクを一時的に緩和したものの、本格的な財政健全化に向けた取り組みをむしろ阻害することにもなってしまい、問題先送りの感も強い。

また、3月以降は新興国・途上国の中央銀行が、積極的な金融緩和策を講じている。その中には、政府の国債発行を助ける財政ファイナンス的なものも散見される。国際決済銀行(BIS)によれば、新興国・途上国の中央銀行が国債を中心に債券を購入する規模は、各国GDPの0.2%~2.8%のレンジにあるという。

インドネシア中銀は4月に、イスラム債を政府から直接買い入れ、その後は一般的な国債の買入れも実施している。こうした政策は、一時的には国内での国債発行を助ける可能性はあるが、中長期的には、国債及び通貨の信認を損ねることにつながるリスクが相応にある政策だ。

中所得国でのデフォルト頻発のリスク

今年は、アルゼンチン、レバノン、エクアドルといった国が、既にデフォルト(債務不履行)に至っている。デフォルトのリスクは、南アフリカ、インド、ナイジェリア、ブラジルといった比較的経済規模の大きい中所得国でも高まっているのである。さらに、トルコ、インドネシア、メキシコなどでもデフォルトのリスクがあることは否定できないのではないか。

トルコは、返済期限が近い満期1年未満の対外債務を多く抱えている。短期対外債務は今年4月末時点で約1,200億ドルと、アルゼンチンの約2倍の規模にまで達している。国債格付けも既に投機的水準にある。

G20の関心は、現在、最貧国の対外債務の再編にあるが、現在の厳しい経済環境の下では、通貨危機を伴う形で、新興国・途上国の中でも中所得国での対外債務の返済が滞るデフォルトが多数発生する可能性がある。

それは、低金利環境が長期化する下で、当該国が財政再建策を十分に講じることなく海外からの資金調達を拡大させてきたことの付けが回ってくることを意味するだろう。

こうした事態が生じれば、世界の金融市場の安定を損ね、金融危機の引き金となることも考えられるところだ。

(参考資料)
"BIS Annual Economic Report", June 2020
「新興国や途上国の財政 コロナ禍でますます窮地に」、フィナンシャルタイムズ紙、2020年7月21日
「コロナ危機 揺らぐ成長 新興国 急速な財政悪化」、読売新聞、2020年7月17日

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