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中国本土銀行がプレゼンスを高める香港とその将来

2020/08/25

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中国本土銀行が香港で新規雇用を拡大

香港国家安全維持法の施行によって中国政府の影響力が強まることを警戒して、外国銀行は香港でのビジネスを見直し、縮小する動きを見せ始めている。他方で、中国本土の銀行は、香港でのビジネスを拡大させている。「香港の中国化」が進行しているのだ。

外国銀行が香港でのビジネスを見直すきっかけとなったのは、国家安全法の施行だけではない。昨年来の香港でのデモの激化、新型コロナウイルス問題、米中対立も影響している。香港で活動する人材派遣会社によれば、金融部門で新規雇用のニーズがあるのは、今では中国本土の銀行が中心だという。

香港証券先物委員会(SFC)のデータによると、香港で中国本土銀行が雇用しているSFC資格を有する投資銀行業務に携わる従業員は、現在2,100人を超える。その数は、前年比で4%程度増加しており、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスといった米国投資銀行が香港で雇用する従業員の数にかなり迫っている。

香港で特に積極的に雇用を拡大させているのは、中国本土最大級の投資銀行である中国国際金融股份有限公司(CICC)だ。CICCは、2019年年初から2020年7月末までの間に、SFC資格を保有する従業員を130人超増やした。これは従業員全体の20%程度の増加に相当する。

中国本土銀行は外国銀行から流出する人材の受け皿となるか

米国と中国の対立が激化し、米国政府が米国で上昇する中国企業を締め出す動きを示す中、中国企業は香港に上場する動きを強めている。米系投資銀行が近年中国本土でのビジネスを拡大し、中国企業の資金調達に重要な役割を担う中で、中国の銀行も中国企業の資金調達ビジネスの拡大を目指してきた。香港での雇用拡大はそうした戦略の一環でもある。

中国本土の銀行にとっては、国家安全法の施行を受けて、香港でのデモが鎮静化し、治安が安定したことは、ビジネスの拡大により前向きになる要因となっている。2019年下期に警察とデモ隊とが激しく衝突した時点では、SFC資格を持つ銀行の従業員の増加ペースは著しく鈍化していた。それに追い打ちをかけたのが、コロナ問題だ。

しかし、足もとでは中国本土銀行による香港での雇用増加が顕著となっており、今後は、外国金融機関の香港ビジネス縮小によって流出する人材の受け皿となっていくのではないか。フィナンシャル・タイムズ紙の調査でも、2019年年初から最も雇用を増やしている銀行の上位5社のうち4社は、中国本土の銀行だ。

香港の将来は中国政府の戦略に左右される

ただし、中国本土の銀行による香港での人材確保にも逆風がある。香港の所得税率は15%と、中国本土の45%を大幅に下回っていた。ところが、中国当局が在外市民の本土外所得への徴税に乗り出したことを受け、香港で勤務する本土出身者の一部には、45%の所得税率が適用されることになったのである。

そこで、香港での生活費の高さを踏まえて、香港から本土へと戻る本土出身者の金融人材が、今後増えてくる可能性がある。この点は、中国本土銀行による香港での雇用拡大には障害となり得るだろう。

そのため、国家安全法の施行を受けて、香港市民や在留外国人が流出する分を中国本土の人材が穴埋めするとの期待も幾分後退してきている。香港から人材流出が続く場合には、国際金融センターとしての香港の地位が低下するばかりでなく、中国の金融センターとしての香港の地位も低下していき、将来的には上海、深圳などの国内金融センターに引き離されていく事態も考えられるだろう。

いずれにしても、香港の将来は、他の国内金融センターとの見合いで、国際あるいは国内金融センターとしての香港の重要性をどの程度維持するかという、中国政府の戦略に最終的には大きく左右されることになるだろう。

(参考資料)
"Chinese influence grows in Hong Kong banking", Financial Times, August 17, 2020

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