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SECがロビンフッドへの調査を開始

2020/09/09

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「ロビンフッダー」がコロナショック後の株価回復の牽引役を果たしたか

米証券取引委員会(SEC)が株取引アプリを提供するスマートフォン証券ロビンフッドの調査を開始した、と報じられた。HFT(高速取引業者)に顧客注文を売っていたことを、当初適切に開示しなかったことが詐欺に当たる、との疑いがあるようだ。それ以外にも、投資家保護の観点から、ロビンフッドの業務に関する様々な問題点について、今後SECは調査を進めていくことになるのではないか。

ロビンフッドは、シリコンバレーに本拠を置く未上場のスマートフォン専業証券だ。収入に関係なく誰でも利用できる金融サービスを提供する、という理念に基づき、2013年に創業された。売買手数料の無料化と使い勝手の良さが20代から30代の若年者の支持を得て、短期間で利用者を急増させていった。

口座数は昨年12月に1,000万件に到達し、今年に入ってから利用者の増加ペースはさらに高まって、1-3月だけで300万件増加したという。

ロビンフッドのアプリを用いた株式取引がより注目されるようになったのは、新型コロナウイルス問題である。消費者が外出を控える巣籠り傾向を強める中、ゲーム感覚もあって、ロビンフッドのアプリを用いた株式取引の拡大や新規の利用者数増加がみられた。

3月の株価急落後の回復には、ロビンフッドの顧客である個人投資家の影響力があったとされる。少なくとも一部の銘柄では、ロビンフッドの利用者が株価をけん引している可能性を示す分析結果もある。彼らは「ロビンフッダー」とも呼ばれるようになったのである。

初心者にリスクの高い投資を促したとの批判も

しかし、そうした株式市場への影響力の高まりと同時に、投資経験の少ない若年者にリスクの高い取引を促しているとして、ロビンフッドに対する批判も高まっていった。

シカゴ大学のマーシニ・チェティ助教は、ロビンフッドのインターフェースについて、ユーザーを誘導するデザインである「ダークパターン」にも似た特徴がある、と指摘する。例えば、ロビンフッドで取引を始めると、前に進むのは後戻りするよりずっと簡単な設計となっている。株式購入を確認するために必要な動作は画面上で1回スワイプすることだけだが、明確な取り消しボタンはない。また、ロビンフッドのアプリ上では、スクリーンにデジタルの紙吹雪が降り注ぎ、ユーザーは推奨リストで株購入を勧められる。

今年に入ってから2つの事件

ロビンフッドに対する批判が高まるきっかけとなった事件が、今年に入って2件起きている。第1は、株価が乱高下した今年3月に、ロビンフッドの利用者の売買が急増して、システム障害が多発したことだ。システム障害で機動的な売買が妨げられ、損失を被ったと主張する利用者が、集団訴訟を起こす事態へと発展した。またその際、ロビンフッドが緊急の顧客対応にあたらなかったことなども問題視された。

第2は、6月に利用者の20歳の大学生がオプション取引で巨額の損失を被ったと誤解して、自殺した事件である。

SECのクレイトン委員長はこの自殺事件を受けて、ロビンフッドの調査に乗り出すと、米下院の金融サービス委員会に通知した。クレイトン委員長は、初心者が短期売買を繰り返すリスクを憂慮しているとし、投資教育の重要性を訴えた。

これらの事件も、SECが今回ロビンフッドの調査を開始した背景にあるものと推察される。

HFTへの顧客注文売却を当初適切に開示しなかった

さて、今回のSECによるロビンフッドへの調査対象と説明されているのが、顧客の注文をHFTに回す見返りに、リベートを受け取る仕組みに関するものだ。HFTは、個人投資家の注文情報を自らの株式取引が有利になるように使うことができ、その対価として、ロビンフッドにリベートを支払う。それがロビンフッドのビジネスを支えている。これがあるからこそ、手数料をゼロにすることが可能となっている。

HFTからこうした形でリベートを受け取る仕組み自体は合法であり、他のネット証券も収益源の1つとしている。しかし、ロビンフッドは、2018年秋までは、その事実を公表せず、重要な情報を伏せたまま顧客獲得に動いたことが詐欺にあたる、とSECはみているようだ。

さらに、ロビンフッドが顧客の注文をHFTに回すなかで、顧客が最も有利な条件で売買ができる最良執行義務を果たしていない、との問題意識もSECは持っているようだ。

コロナショック後の米国株価上昇を牽引してきたロビンフッドへのSECの調査は、レピュテーションリスクも含めて、その牽引力を削いでしまう面があるかもしれない。しかしそれをきっかけに、投資家保護の枠組みがより強化され、スマートフォン証券に対する信頼性が高まるのであれば、長い目で見た業界の成長を助けることになるのではないか。

(参考資料)
「米国版イナゴ『ロビンフッダー』の影響力と危うさ-相場のキホン・米国編(9)」、日本経済新聞電子版、2020年9月4日
「注文処理非開示『投資家不利に』、米当局、ロビンフッドを調査、フィンテック拡大のひずみ。」、日本経済新聞、2020年9月4日
「株取引アプリ『ロビンフッド』簡単すぎる?」、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、2020年8月21日

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