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燻り続ける香港ドルペッグ制度の信認問題

2020/09/10

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香港通貨当局に為替介入を強いた3つの波

香港通貨当局である香港金融管理局(HKMA)は、米ドルに対する香港ドルのペッグ制度を維持するために、市場への介入を続けている。香港金融管理局が4年ぶりに香港ドル売り介入を実施したのは、今年の4月21日だ。それ以降、40回も介入を実施している。これは、リーマンショック後の2008年、2009年以来の積極的な市場介入である。

香港は一定の範囲内で香港ドルを米ドルに連動させるペッグ制を採用している。2005年に1米ドル=7.75~7.85香港ドルの取引レンジが導入され、そのレンジ内に変動を抑えるために、必要に応じて香港金融管理局が市場に介入する仕組みとなっている。

今年に入ってからは、米ドルが取引レンジの下限に近付き、ペッグ制度を維持するために香港金融管理局が積極的な市場介入を強いられる大きな波が3回あったと考えられる。

第1がコロナショックへの対応として、3月に米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を一気にゼロ近傍まで引き下げたことだ。米国と香港との市場金利差の拡大が、香港ドルを押し上げた。

米中対立とIPOラッシュも香港ドル高圧力に

第2が、中国による香港国家安全法制定をきっかけに、米国と中国との間の対立が強まったことだ。米国政府内で、香港の銀行のドル調達を制限する案が一時的に検討されたと報じられた。香港ドルを発行するHSBCなどの銀行のドル調達に支障が生じれば、香港ドルの米ドルペッグ制度を維持できなくなる、あるいは制度の安定性が損なわれるとの観測が浮上した。これが、香港ドル高米ドル安の圧力を高めたのである。

そして現在生じている第3の波は、香港での中国企業のIPO(新規株式公開)ラッシュである。先月には、中国の電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディング関連会社のアント・ファイナンシャルが、香港の取引所と上海の取引所への同時上場する計画を正式に公表した。香港では、最大で200億米ドルにも達する見通しだ。

海外からこうしたIPO銘柄を購入するには、香港ドルを購入する必要がある。そうした動きが、米ドルに対して香港ドルを押し上げる圧力となっているのである。

市場では、香港が巨額の米ドル準備を抱える中、市場の力でペッグ制度が維持できなくなる可能性は低い、との見方が大勢である。しかし、香港を巡る米中感の対立がさらにエスカレートしていく中、ペッグ制度の持続性に対する不安は今後も燻り続けるだろう。米ドルとのペッグが外れる、との観測は、現状では香港ドル高を生じさせやすい。

しかし今後、香港での政治・社会混乱が激しくなり、香港から資金が海外へ流出する「キャピタルフライト」が生じれば、香港ドルは対ドルの下限を維持できなくなる事態も生じ得るだろう。

「一国二制度」の象徴の一つでもある香港のペッグ制度は、「一国二制度」が揺らぐなかで、この先も上下双方向から、その持続性を試され続けることになるのではないか。

(参考資料)
"Central bank makes biggest moves in a decade to protect Hong Kong dollar peg", Financial Times September 4, 2020

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