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大統領選挙後の混乱と米国民主主義の信頼性低下のリスク

2020/09/24

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大統領選挙前の駆け込みでの社債発行

足もとで、米国の社債発行が急増している。米企業による社債発行は、8月に同月としては過去最高水準の合計2,100億ドルに達した。9月も依然として高水準で推移している。

コロナショックを受けて、企業は流動性確保のために銀行からの借り入れを拡大させるとともに、社債の発行を一時的に拡大させた。ただし足もとでの社債発行の増加は、低金利環境を活かしてより長期の資金を確保するためのものと、その目的は変化していると見られる。

さらに、企業が警戒しているのは、11月の米大統領選挙である。選挙後に市場が混乱すれば、社債の発行が難しくなる可能性があるため、今のうちに、駆け込みで社債を発行しようとの動きを強めているのである。

選挙結果が確定しないリスクを警戒する金融市場

そして、金融市場も大統領選挙後の混乱を強く警戒している。それは、株式市場のボラティリティ(変動率)見通しを反映するVIX指数(恐怖指数)の先物市場に、顕著に表れている。投票日の11月3日前後に期日を迎える先物価格が、著しく上昇しているのである。また、為替デリバティブ(金融派生商品)や国債、社債にも、大統領選挙後の市場の混乱を反映する動きが見られているようだ。

2016年の前回の大統領選挙では、予想外のトランプ氏の勝利で、金融市場は大きく揺れた。しかし、今回金融市場が強く警戒しているのは、共和党のトランプ現大統領、民主党のバイデン候補の勝敗の結果を受けて市場が混乱することよりも、選挙結果がしばらく確定しないことによって生じる市場の混乱である。

選挙結果次第に関わらず混乱か

米大統領選挙では、敗れた候補者が潔く負けを認めることが昔から伝統であった。しかし、仮にトランプ大統領が敗れる場合には、自身の負けを認めない可能性を多くの人が意識している。感染リスクを警戒して、今回の選挙では郵便での投票を選ぶ有権者が多いと見られるが、トランプ大統領は、郵便投票は二重投票の可能性を高め、不正の温床になると繰り返し発言してきた。そうした発言は、トランプ大統領が選挙に敗れた場合でも負けを認めないことの布石である、と考える向きは少なくない。

他方、事前の世論調査でバイデン氏が大きくリードする中でバイデン氏がトランプ大統領に敗れる場合には、民主党に有利とされる郵便投票を政権が妨げた、投票所で妨害行為が行われた、などといった批判とともに、バイデン氏の支持者の間で抗議活動が活発化する可能性も考えられるところだ。

米国民主主義への信頼がさらに低下する可能性

選挙は民主主義の根幹であることを踏まえると、大統領選挙の結果が直ぐに確定しない事態となれば、それは米国の民主主義制度に対する信頼性を損ねることになる。

現在でも、民主・共和両党間の対立から、追加のコロナ経済対策が決まらない状況が数か月も続いており、それは民主主義制度の弱点を浮き彫りにしていると言える。これに選挙結果が確定しないという事態が重なれば、米国の民主主義制度、そして国家に対する信頼性は一段と低下するのではないか。

金融市場は、健全な国家制度や司法体制などのもとに成り立っていることを考えれば、こうした事態は、米国の金融市場の安定性に大きな打撃を与えることは避けられないだろう。それは、米国株価の下落に加えて、米国金融市場の信認低下を映したドル安を生じさせることになるだろう。そのため、影響は世界の金融市場や経済活動にも及ぶ。

ドル急落となれば、日本では急激な円高が経済活動や株式市場に大きな打撃となる事態も考えられるだろう。米国大統領選挙に関わるリスクは、世界経済・金融の大きなリスクなのである。

(参考資料)
「米大統領選控え社債発行急ぐ動き」、フィナンシャルタイムズ、2020年9月14日
「波乱含みの米大統領選、身構える金融市場(上)」、フィナンシャルタイムズ、2020年9月10日
「波乱含みの米大統領選、身構える金融市場(下)」、フィナンシャルタイムズ、2020年9月11日

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