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バイデン政権で存在感を見せるブラックロックとウォール街の対中戦略

2020/12/07

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バイデン次期大統領はブラックロック出身者を登用

バイデン次期大統領は、米大手運用会社のブラックロック出身者の経済チームへの登用を決めている。第1は、ブライアン・ディーズ氏を米国家経済会議(NEC)委員長に指名したことだ。ディーズ氏は、もともと自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラーの救済を監督するホワイトハウスの中心メンバーだった。2015年には、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」の交渉で、政府に助言を行っていた。同氏は2017年にブラックロックに入社し、サステナブル投資を統括している。

第2は、ウォーリー・アディエモ氏を財務副長官に指名したことだ。同氏は、かつてブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)の右腕だった人物だ。

米政権の幹部には、今までもウォール街出身者が登用されることが多かった。過去の4つの政権のうち3つでは、財務長官という要職をゴールドマン・サックス出身者が占めていた。それは、「ガバメント・サックス」とも言われていた程だ。今度は、ブラックロックがその役目を担い、ウォール街で政権への主な人材供給源の一つとして地位を確立したように見える。

バイデン次期大統領がウォール街出身者を登用するのは、金融市場からの信頼を高める狙いがあるだろう。ウォール街は、バイデン政権が進める金融規制強化を警戒している。そうした警戒を和らげ、改革を円滑に進める意図もあるのではないか。

他方で、ゴールドマン・サックスのような銀行と比べて国民からの反発が強くない、資産運用会社のブラックロックからの登用を決めた、との見方もある。

中国政府とウォール街との蜜月関係?

ところでウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米国の金融界は、中国と比較的良好な関係にあることから、ウォール街出身者の登用は、バイデン政権下での米中対立を緩和させる面もあると指摘する。

トランプ政権の下で米中貿易戦争が激しさを増すと、中国政府は、中国での米国金融機関の活動についての規制を緩和し、ビジネス機会を拡大させることと交換に、米国金融機関に対してトランプ政権との間の仲介役を果たすよう、助けを求めたという。

過去にも、中国指導部はウォール街に助けを求めることがあった。1990年代終わりに中国の大手銀行が不良債権問題に悩まされた際には、当時の朱鎔基首相は、米国の投資銀行に不良債権処理の支援を要請した。この中には、当時ゴールドマン・サックスにいたポールソン元財務長官も含まれていたという。そして、中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟できたことの見返りとして、中国政府は金融セクター自由化に同意したのである。

今年1月に成立した米中貿易協議の部分合意には、中国側の金融分野での積極的な開放策が含まれた。多くの産業がこの合意に満足せず、さらなる要請をトランプ政権に示す中で、ウォール街はこの合意を支持した。

この合意を受けて、JPモルガンは先物取引合弁事業の完全な支配権を得ることになった。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーはそれぞれ、中国での証券合弁事業の経営権を確保した。またシティグループは、中国で営業するファンドの保有有価証券を保管・管理するカストディアンのライセンスを得ることができた。

ブラックロックが中国との関係を強める

さらに今年8月には、ブラックロックが、外国企業として初めて、中国での全額出資の投資信託事業の開始を認められた。低金利下で収益性が低下している米国の金融業にとって、中国は収益獲得の機会に溢れている成長市場である。

2015年夏の人民元切り下げに伴う中国株の下落を受けて、中国の金融分野の自由化は一時停止したが、米中貿易戦争の副産物として、自由化が再び進められていった。

米中貿易交渉では、中国側の交渉トップの劉副首相は、2018年2月の会合後に、中国の年金制度をどう刷新すべきかについてのアイデアをブラックロックのフィンクCEOに求めたという。中国では人口が急速に高齢化する中、今後、年金資金の大幅な不足が見込まれたためである。フィンクCEOはこの際、ブラックロックが中国の家計による投資のセーフティネット構築に役立てる可能性があることを、中国側に示唆したという。

米国内の市場は飽和状態で、手数料の値下げ競争が利益を侵食しつつある中、ブラックロックにとっても中国市場は大いに魅力がある。2017年6月にMSCIが中国本土で取引される中国「A株」を、大手投資家が投資する際の基盤となる新興国市場株価指数に採用することを決めたが、中国政府の求めに応じてそれを助けたのは、ブラックロックだったという。その後まもなくして、ブラックロックは特定の投資家向けに中国内で私募ファンド事業を開始する先行申請の承認を得たのである。

ブラックロック出身者と民主党急進左派との間で対立が生じる可能性も

バイデン政権のもとでも、ウォール街と中国政府との間の比較的良好な関係は続く可能性があるだろう。ウォール街は米国政府と中国政府との間に入り込む形で、中国での金融市場の海外への開放を促し、そこでビジネスの拡大を図るのではないか。

ただし、バイデン政権で国家安全保障担当の大統領補佐官に起用されたジェイク・サリバン氏は今年、共同執筆した寄稿の中で、「なぜ、例えばゴールドマン・サックスのために中国の金融市場を開放することを、米政府の交渉の優先課題にしなければならないのか」と指摘しており、対中交渉にウォール街の利害を反映させることに慎重な姿勢だ。

また、民主党急進左派も、米国金融機関が中国ビジネスを拡大させ、そこで大きな利益を得ることを問題視する可能性がある。ウォール街の中国ビジネスについては、バイデン政権内でウォール街の利害を代表するブラックロック出身者と民主党急進左派の間で軋轢が生じる可能性がある。

バイデン政権の下でも米中対立は継続すると見られるが、その中で、ウォール街が両国に働きかけて引き続きメリットを得ることできるかどうかは、バイデン次期大統領の采配に掛かっているだろう。

(参考資料)
"Black Rock Emerges as Wall Street Player in Biden Administration", Wall Street Journal, December 2, 2020
"China Has One Powerful Friend Left in the U.S.: Wall Street&rdquo", Wall Street Journal, December 3, 2020

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