フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 ECBの4月政策理事会のAccounts-Easing the conflicts

ECBの4月政策理事会のAccounts-Easing the conflicts

2021/05/18

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

はじめに

ECBによる前回(4月)の政策理事会は、金融緩和の現状維持を決定しただけに、前々回(3月)とは異なり、メンバー間の意見の相違も目立たず、本年後半の景気回復に対する期待を共有した。

経済情勢の判断

レーン理事は、Covid-19の感染再拡大とその抑制策によって、第1四半期が再びマイナス成長になった可能性を指摘しつつ、ワクチン接種の拡大と感染抑制策の緩和に伴い、本年後半には景気が回復に向かうとの前向きな見方を維持した。

内容別には、製造業の生産が拡大を続け、非製造業のPMIも改善傾向にある点を確認したほか、設備投資も回復し、足許で低調な建設業の活動にも回復の兆しがあるとした。一方で、小売売上が引続き低迷しているほか、家計の購買意欲も回復しているが低水準であると評価した。

この間、労働市場では引続き特定の部門にストレスが集中しているほか、政府の支援策によって実勢の評価が難しいと指摘し、失業率は抑制されているものの、市場からの退出者や政府の雇用支援策の下にある労働者が高水準である点に懸念を示した。

これらを踏まえレーン理事は、短期のリスクは下方に傾いているが、中期には上下によりバランスしたと評価した。また、上方要因として、外需の好転、財政支出の拡大、ワクチン接種の加速、家計貯蓄の早期の取り崩し、下方要因として、変異種を含むCovid-19の感染再拡大、ワクチン接種の遅延を各々指摘した。

理事会メンバーはこうした評価に概ね(generally)合意し、経済には脆弱性と不透明性が残るが、主要指標は3月時点の見通しに整合的との見方を示した。また、家計や企業がCovid-19下での活動に学習効果を発揮しているとの指摘もあった。一方、ワクチン接種のペースや変異種の拡大に不透明性が残る点や、経済見通しの下方修正に伴う影響への懸念も示された。

また、理事会メンバーの間では、積み上がった家計貯蓄の取り崩しの見通しが再び論点となった。前々回(3月)に提出された執行部見通しは、緩やかな取り崩しによる消費支出の増加を想定しているが、昨年秋の経験を踏まえて、より迅速な消費拡大に繋がるとの期待と、足許のセンチメントを反映して、今年の支出行動はより慎重との見方がともに示された。 その上で、経済見通しのリスクバランスに関しては、レーン理事の見方に幅広く合意した。

物価情勢の判断

レーン理事は、HICP総合インフレ率の足許での改善は、昨年の原油価格の低迷の反動を含めて、主として一時的な要因によるとの理解を維持した。一方、基調的インフレ率には目立った変化がなく、インフレ期待も市場ベースでは改善が続いているが、 ECBのSPF(エコノミスト予想)では、特に中長期の期待は安定している点を確認した。

理事会メンバーも、こうした評価に幅広く(broadly)合意した。また、経済活動の再開に伴う供給制約と、労働面でのslackの残存や賃金上昇の弱さといった硬軟両要因への言及がみられた。インフレ期待についても、市場ベースの改善の大半はリスクプレミアムの増加によるとの指摘があったほか、現時点ではインフレ期待の上方への不安定化のリスクはないが、今後も動向を注視すべきとの議論がなされた。

資金調達条件の評価

シュナーベルl理事は、ユーロ圏の国債利回りが米国と乖離し始めた点を取り上げ、Covid-19の抑制策による経済への下押し懸念とともに、前々回(3月)の政策理事会における政策決定(PEPPによる資産買入れペースの引上げ)を背景として指摘した。

また、EONIAのforward curveが安定している点は、市場におけるECBの利上げ開始時期に関する期待が(米国とは異なり)安定している点を示唆するとの理解を示したほか、実体経済に強い関係を有する中期の実質金利や信用リスクプレミアムが安定している点を挙げて、緩和効果が適切に波及していると主張した。

一方、レーン理事は、足許での銀行貸出の減速が、企業の投資資金や運転資金に対する需要の後退を反映したものとの理解を示し、直近のBLSで銀行の与信姿勢がさらに慎重化した点についても、その度合いは以前より小さいと指摘した。その上で、ユーロ圏の資金調達条件は概ね安定的と評価した。

理事会メンバーからは、銀行の与信スタンスの慎重化が予て懸念されたほどではないのは、TLTRO IIIがcliff effectを有効に防止しているからとの指摘があった(実際、3月の実行額は再び増加している)ほか、年初来の市場金利の上昇が銀行貸出金利の上昇に波及していない点への評価もみられた。

金融政策の判断

レーン理事は、金融政策の現状維持を提案するとともに、市場との対話のポイントとして、①現在の枠組みに沿って、次回(6月)の会合で新たな執行部見通しと資金調達条件の評価を踏まえて、金融政策の適切さを確認する、②PEPPによる資産買入れは政策手段の一つにすぎず、ECBは必要に応じてすべての手段を発動する用意がある、の2点を挙げた。

このうち②の意図は必ずしも明確ではないが、市場の関心がPEPPのみに集中することが、ECBにとって必ずしも望ましくないことは事実であろう。

理事会メンバーは、こうした提案に幅広く(broadly)合意したほか、興味深いことに昨年12月および本年3月の政策理事会で決定した金融緩和策が良好な資金調達条件の維持に有効かつ適切との評価を示した。加えて、前々回(3月)会合でのPEPPによる資産買入れペースの「顕著な引上げ」方針は適切との判断も示した。

もっとも、年初来の長期金利の上昇について、米国での金融政策に関する期待の変化と、ユーロ圏でのワクチン接種の普及に対する評価による面が強いとの整理を示した上で、今後にユーロ圏の資金調達条件がタイト化するリスクも指摘された。

その上で理事会メンバーは、PEPPの運営を物価見通しと資金調達条件の評価に即して、包括的かつ多面的な指標に基づいて決定する枠組みの有用性を確認する一方、市場の状況や金融緩和の波及効果に即してPEPPによる資産買入れを柔軟に運営することの重要性にも言及した。また、レーン理事が提起した市場との対話のポイントにも幅広く(broadly)合意した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    主席研究員

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn