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6月FOMCのMinutes-Reaction function

2021/07/08

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はじめに

6月のFOMCでは、インフレ率の上方リスクが共有されたほか、力強い景気回復を背景に、資産買入れのテーパリング開始が以前の想定よりも幾分早まる可能性に言及した。

経済情勢の判断

FOMCメンバーは、ワクチン接種と財政支出により、経済活動が家計消費を中心に拡大した点を確認した。このため、大多数(a vast majority)は2021年の成長率見通しを上方修正したほか、供給制約と労働力不足が成長を制約するとの見方も示した。その一方、2022年以降の見通しは前回(3月)並みに維持した。

このうち消費については、緩和的な金融環境、ペントアップ需要、ワクチン接種、感染抑制策の解消、財政支援といった好材料に支えられて顕著に拡大しているほか、今後も高水準の貯蓄や健全な資産内容によって拡大が続くとの期待を示した。

企業活動も、娯楽や宿泊といった深刻な影響を受けた部門でも改善がみられる点を確認したほか、設備投資が強力に拡大していると評価した。もっとも、多くの産業で供給制約のために需要を充足できていない点も指摘され、一部の企業で生産体制の抑制、賃金や価格の引上げといった対応もみられるとの報告もあった。

雇用も拡大を続け、未充足求人や転職の増加も労働市場の好転を示すものと評価した。もっとも、多数(many)のメンバーは、 FOMCによる幅広く包括的な最大雇用の目標達成には程遠いとの判断を確認したほか、雇用改善のペースが想定より遅いとの見方も示された。また、地区連銀総裁からは、早期退職やCovid-19の感染への不安、子弟の養育、失業保険給付の拡大等によって、新規雇用が困難な状況がみられるとの指摘があった。

その上で、先行きのリスクは上下にバランスしているが、不透明性は高いとの評価を維持した。理由としては、感染症からの景気回復に経験がなく、部門間でばらつきがあることに加え、供給制約と労働力不足が回復過程を複雑化する可能性が挙げられた。

物価情勢の判断

FOMCメンバーは、エネルギー価格の水準効果の剥落とその後の上昇によって、当面はインフレ率が2%目標を上回って推移するとの見方を確認した。もっとも、実際の上昇率が想定以上であると評価し、供給制約や労働力不足を理由に挙げた。実際、多く(many)のメンバーは、特に低賃金労働の不足の下で、企業が賃金や金銭的なインセンティブを引き上げている点を指摘した。

今後は、一時的な要因の解消に伴ってインフレ率も減速するとの見方が概ね共有された。もっとも、数名(several)のメンバーは供給制約が来年まで上方圧力として残存するとの見方を示した一方、数名(several)のメンバーは経済活動再開の初期段階にあるだけに、先行きの不透明性が高いとの見方を示した。また、数名(some)のメンバーは、刈込み平均のようなインフレ指標は2%以下で安定し、長期のインフレ期待もFOMCの目標と概ね整合的であるとした。

その上で、大多数(a vast majority)のメンバーは、供給制約と労働力不足が長期化し、より大きな影響を与えることで、先行きのリスクは上方に傾いていると評価した。ただし、数名(several)のメンバーが長期インフレ期待の上昇リスクを指摘した一方、他の数名(several others)のメンバーは、Covid-19以前のインフレやインフレ期待の構造が残存しているため、一時的要因の剥落後のインフレ率の減速は想定より早いとの見方を示した。

金融環境の評価

6月のFOMCでの執行部による金融環境の評価には大きな変化はみられず、FOMCメンバーも緩和的な環境の維持を確認した。執行部説明によれば、米国債のイールドカーブが中長期ゾーンの軟化によって若干フラット化した一方、社債の利回りスプレッドも若干タイト化した。地方債の利回りスプレッドが歴史的低水準になった点も指摘されているが、連邦政府による州財政の支援策等を反映したものであろう。

執行部は、歴史的低水準の社債利回りや高いPERが示すように企業の資金調達環境を極めて緩和的と評価し、社債発行は高水準である一方、新株発行はやや減速しているとした。一方、商工業貸出は、新規需要の後退とPPPローンの返済免除によって、残高が減少した点を指摘したほか、中小企業の資金調達環境は依然としてタイトであると評価した。

家計の資金調達環境も概ね緩和的に維持され、住宅ローン金利が歴史的低水準にある下で、新規借入れと借換えの拡大が続いていると評価したほか、自動車ローンやカードローンが足元で増加している点も確認した。もっとも、信用スコアの低い借り手による資金調達環境はよりタイト化したとの見方も示した。

金融政策の判断

6月のFOMCでは金融緩和の現状維持を決定した。その上で、資産買入れに関してFOMCメンバーは、テーパリング開始の条件である「政策目標の達成に向けた更なる顕著な前進」は達成されてないが、前進が続いているとの評価を示した。

また、多様な(various)メンバーは、足元の経済指標に照らすと、そうした条件の達成が以前の想定より早まる可能性に言及した。もっとも、数名(some)のメンバーは、足元の経済指標は経済の基調を明確に示しておらず、上記の条件の達成を評価し、資産買入れの運営方針を公表する上では慎重(patient)である必要性を強調した。

これを受けてFOMCメンバーは、予想以上の「前進」に対応することも含む慎重な備え(prudent planning)として、テーパリングへの体制を整える(well positioned)ことの重要性を共有した。

テーパリングに関しては、住宅価格の高騰を踏まえて、数名(several)のメンバーがMBSを早期かつ迅速に減速することのメリットを主張した一方、他の数名(several others)は、これまでの市場との対話や統合的な政策効果を踏まえて、米国債と同時に減速すべきと主張した。

利上げの開始時期に関しても、数名(a few)のメンバーが前回見通し(3月)に比べてフォワードガイダンスの達成時期が早まる可能性を示唆した一方、数名(several)は景気見通しは不透明性であり、判断は時期尚早との見方を示した。その上で、数名(some)のメンバーは、利上げのパスに関する発信は市場参加者の焦点になっているだけに、FOMCの反応関数やコミットメントに変化がない点を強調することの重要性を指摘した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    主席研究員

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