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FRBのパウエル議長の記者会見-Soon be warranted

2021/09/24

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はじめに

今回(9月)のFOMCは金融政策の現状維持を決定したが、政策目標の達成に向けた動きが見通し通りに推移すれば、資産買入れのテーパリング開始の条件は間もなく満たされるとの判断を示し、次回(11月)会合での開始を示唆した。

経済情勢の判断

パウエル議長は、米国経済が本年前半は高成長を続けたが、足元でCovid-19の感染拡大を受けた消費の停滞と、供給制約による自動車等の生産の抑制などによって成長が減速していると評価した。FOMCメンバーによる実質GDP成長率見通しも、本年について+5.9%と、前回(6月)の+7.0%から下方修正されている。

もっとも、2022~24年にかけては+3.8%→+2.5%→+2.0%と、前回(6月)に比べて、2022年と23年が各々0.5ppと0.1ppずつ上方修正され、2024年にかけて「長期」成長率である1.8%に向けて緩やかに収斂する姿が想定されている。

パウエル議長は、雇用の基調も強いが、8月にはCovid-19の影響で娯楽や宿泊等を中心に伸び悩んだ点を確認した。失業率に関するFOMCメンバーの見通しも本年について4.8%と前回(6月)の4.5%から上方修正された。もっとも、2022~23年については+3.8%→+3.5%と前回(6月)と不変で、2024年も3.5%と「長期」失業率である4%を下回ることが想定されている。

物価情勢の判断

パウエル議長は、供給制約によるインフレ率の上昇が一時的との見方を維持したが、その期間が予想より長く、上方リスクも存在するとの見方を示した。実際、今回公表されたFOMCメンバーによるコアPCEインフレ率見通しも、2021年~23年にかけて+3.7%→+2.3%→+2.2%と、各々0.7pp、0.2pp、0,1ppの上方修正となったほか、2024年も2.1%とされ、中期的に高めの状況が維持されると想定されている。

質疑ではインフレ期待の評価が取り上げられたが、パウエル議長は市場やエコノミスト、家計などによってばらつきがある点を認めた上で、FRBが推計している総合指標(CIE:ジャクソンホールの講演で言及したもの)でみると緩やかな回復として歓迎すべき動きと評価したほか、家計も中長期のインフレ期待は安定しているとの理解を示した。

資産買入れのテーパリング

今回(9月)の声明文は、政策目標の達成に向けた動きが見通し通りに進めば、テーパリング開始の条件は間もなく満たされると明記した。パウエル議長は「間もなく」が次回(11月)会合を指す点を説明したほか、テーパリングは来年中盤に終了するペースで行う考えを示し、テーパリングの開始条件の充足や実施ペースに関して、FOMCメンバーの多数が支持していると説明した。

今回(9月)の会合が既にテーパリング開始の予告を意味し、次回(11月)には実際に開始されるとすれば、年内には2回のFOMCがある(11月と12月)。さらに、パウエル議長が言及した来年が仮に6月を意味するとすれば、2022年のFOMC会合はそれまでに4回開催される(1月、3月、5月、6月)ので、テーパリングは合計6回の会合を通じて終了することになる。

現在の買入れペースは国債とMBSの合計で1,200億ドル/月の増加なので、単純に計算すると毎回のFOMCで200億ドル/月づつ減速すればよい。また、今回の質疑では触れられなかったが議事要旨を見る限り、国債とMBSの買入れを比例的に減らす考えがFOMCの大勢であったので、平均的には国債を約130億ドル/月、MBSを約60億ドル強/月減らせばよい。あるいは、今年の11月から来年の6月の8か月で毎月150億ドル/月ずつ減らせば、国債は100億ドル/月、MBSは50億ドル/月と単純化できる。

質疑では、Covid-19の感染抑制や学校の授業開始、失業保険の割増し給付の終了等を理由に、FOMCは秋以降の雇用回復の加速を予想していた点が取り上げられ、実現しなかった場合のテーパリングへの影響が質された。

パウエル議長は、雇用増加にはconfidenceの回復が重要である点を認めつつ、未充足求人が高水準にあるだけ雇用の回復自体は継続するとの見方を確認した。また、テーパリングの開始条件は累積的な雇用回復なので、9月の雇用統計の結果が高いハードルになる訳ではないと説明した。

利上げの開始

FOMCメンバーのdot chartは、2022年末までの利上げ予想が多数派(17名中9名)となったほか、2023年末の見通しは大きくばらついたが、最頻値は1.125%(6名)となるなど、前回(6月)から総じて上方にシフトした。こうした特徴は2024年末も同様で、最頻値は2.125%(6名)となった。

ただし、現時点では予想に過ぎないが、FOMCの中心的な見通しは、2022年末に初回の利上げを行った後は、2024年末にかけて年間1%程度-例えば1回おきのFOMCで25bpづつーといった緩やかなペースでの利上げを示唆している。

記者会見ではテーパリングより利上げに関する質問が多かった。

複数の記者が、FOMCメンバーがインフレ率の中期的な高止まりを予想していることと、dot chartが示唆する緩やかな利上げが整合的でないとの見方を示したのに対し、パウエル議長は2022年以降のインフレ率の目標対比の上振れは小幅に過ぎず、重視する必要はないとの理解を示した。

また、別の複数の記者は、FOMCが掲げる「幅広く包括的」な最大雇用の達成には時間を要するとして、利上げの開始の妥当性に疑問を示したほか、インフレ率が目標を上回り続ける中でのデュアルマンデートのウエイトの置き方を質した。

パウエル議長は、最大雇用を判断する上で多くの指標を参照する方針を確認した一方、人種間などの雇用格差の解消は望ましいが、他の経済政策の活用がより有効との考えを説明した。また、 デュアルマンデートに関してはbalanced approachを堅持することを確認しつつ、現状のような乖離はCovid-19の影響による一時的な現象に止まるとの見方を示した。

さらに別の記者はインフレが上振れした場合の利上げ開始の早期化の可能性を質したが、パウエル議長はFOMCとして利上げ開始時期を決定したわけでない点を確認するとともに、いずれにしても当面は緩和的な金融環境が維持されると説明した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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