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隠れ休業者救済の焦点はシフト制の扱いに

2021/01/19

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「隠れ休業者」の存在

緊急事態宣言の再発令を受け、飲食業で働く非正規労働者を中心に、雇用・所得環境が再び大きく悪化する可能性が高まっている。その中でも注意しておきたいのは、休業扱いを受けながらも、休業手当を支給されない「隠れ休業者」の存在だ。彼らは、失業していないため、休業手当だけでなく失業手当も受け取ることができないのである。

総務省が発表している労働力調査によれば、休業者数は2020年1月の194万人から、コロナショックを受けて同年4月には597万人、前年同月比+420万人まで急増した。しかしその後は減少傾向を辿り、同年11月には176万人と前年水準を僅か15万人上回る程度となっている。

この労働力調査で、休業者の定義は、調査期間中仕事を全くしなかった者のうち、給料・賃金(休業手当を含む)の支払いを受けている者である。つまり、自宅待機を命じられながらも、従来通りの給料あるいは休業手当を受け取っている雇用者のことだ。ところが実際には、自宅待機を命じられながらも休業手当を受けていない、この統計には計上されていない「隠れ休業者」が多く存在している。

企業の都合で休業状態においた雇用者に対して、企業が休業手当を支払わないのは、違法行為である。労働基準法第26条では、休業手当について以下のように規定されている。

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」

さらに、休業手当を支払わない場合には、使用者には30万円以下の罰金が科せられる。

十分に機能していない「休業支援金」制度

企業は、雇用者を休業扱いとすることで解雇を回避できる場合に、休業手当の一定割合を「雇用調整助成金」として受け取ることができる。コロナショックを受けて、助成率や助成の上限が引き上げられる特例措置も講じられてきた。しかし当初、この「雇用調整助成金」の申請、支給は大いに遅れたのである。事務手続きの煩雑さが、その最大の理由だっただろう。それが、休業手当が支払われない「隠れ休業者」を多く生んでしまった。

「雇用調整助成金」は、企業が申請するものであるため、休業状態に置かれている「隠れ休業者」は、なすすべがなかった。そこで、彼らが自ら申請することで、失業保険給付に類する手当を受給できる「休業支援金」制度が、昨年6月に成立した2次補正予算で作られた。企業の休業手当未払いという違法行為を前提とする、異例の制度である。そのもとで、上限1日1万1,000円で、休業前の給与の8割の支援金が受けられる。

ところが、この「休業支援金」制度も上手く機能していない。予算額5,442億円のうち、支給決定総額は1月7日までで582億円と、1割程度にとどまっている(注1) 。

「休業支援金」の申請は雇用者が行うことができるが、当初は、休業状態を証明する、企業側が発行する資料の提出が必要とされた。申請すれば、違法に休業手当を支払っていないことが当局に発覚することを怖れる企業が、資料の発行を渋るケースが多かったとされる。その後は、企業側が発行する資料の提出は必須でなくなったが、申請によって企業から不当な扱いを受けることを怖れる雇用者は、申請を見送るケースもあるだろう。

シフト制が焦点に

現在、「隠れ休業者」救済の鍵は、シフト制で働く非正規労働者の扱いになってきている。労働力調査で定義される休業者は、全く働かずに自宅待機を命じられた雇用者だが、労働基準法で想定されている休業には、労働時間の一部についての休業も含まれる。あらかじめ定められた労働時間よりも少ない部分については、賃金の60%以上の休業手当を支払うことが企業に義務付けられる。

ところが法的にグレーなのは、あらかじめ決まった労働時間がないタイプのシフト制で働くパート、アルバイトが、企業によるシフトの調整を通じて、労働時間を削減されるケースだ。もともと労働時間が定められていないのだから、シフトを調整しても休業手当を支払う義務はない、と説明している企業は少なくないだろう。

野村総合研究所の昨年12月の調査(注2) によると、新型コロナウイルス感染拡大の影響でシフトが減少するパート・アルバイト女性のうち75.7%が、休業手当を「受け取っていない」と回答している。

制度の周知も課題に

田村厚労相は1月15日の記者会見で、雇用調整助成金制度はシフト制の非正規も対象となる、と明言している。また同日に西村経済再生相は、休業支援金制度は、シフトの減少による休業も対象になる、と説明している。これらは特例措置ともみられるが、今やシフトの減少による労働時間縮小も、雇用調整助成金制度、そして休業支援金制度の対象になるのである。

ところが、この点は、企業側、労働者側に十分に知られてない。上記の野村総合研究所の調査によると、シフトが減少するパート・アルバイト女性のうち、休業支援金制度の存在を知らなかったとの回答が59.2%と6割を占めているのである。

「隠れ休業者」、特にシフト制で働くパート・アルバイトの雇用者を救済することが、喫緊の課題となってきた。コロナショック、緊急事態宣言という大きな環境変化に、企業や雇用者を支援する制度設計が追い付かず、また、新たな制度を導入しても、それが十分に認知されないという問題が浮かび上がってきた。新たな制度を広く企業と雇用者に周知していくのは、2回目の緊急事態宣言の下での政府の優先課題の一つだろう。

(注1)https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html
(注2)https://www.nri.com//media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2020/201229_1.pdf

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