さらなる引き上げが求められる温室効果ガス削減目標
各国の削減目標引き上げでも気温上昇抑制に不十分
米国のバイデン大統領が主導した4月の気候変動サミットでは、先進国を中心に、2030年までの温室効果ガスの削減目標を一気に引き上げる動きが広がった。先進国と新興国との間での温度差はなお残るものの、地球温暖化対策に向けた各国の取り組みがより積極化していることは確かである。
それにもかかわらず、ドイツの研究者らが参加する専門家組織「クライメート・アクション・トラッカー」(CAT)は、パリ協定で掲げられた「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という長期目標の達成には、まだ不十分と結論付けている。
今回の気候変動サミットで各国が新たに掲げた温室効果ガスの削減目標などによって今世紀末、つまり2100年末時点の平均気温はそうでない場合と比べて低下するが、それはわずか0.2℃程度にとどまるのだという。その結果、2100年末時点の平均気温は産業革命以前と比べて2.4℃の上昇になる、とCATは予想している。
また、仮に温室効果ガス削減の取り組みが今後強化されない場合には、2100年末時点の平均気温は産業革命以前と比べて2.9℃もの上昇になってしまう。今回の目標引き上げで見込まれる温室効果ガス削減量は、パリ協定で掲げられた気温上昇を1.5℃に抑えるという目標達成に必要な削減量の11%~14%にすぎないという。
目標達成に向けたハードルは高くなるばかり
日本を含めて、温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする(カーボンニュートラル)という目標を掲げる国は増えてきている。これは、世紀末までの気温の上昇を1.5℃に抑えるのに必要な措置とされる。
世界の温室効果ガス排出量の73%を占める131か国が、実質ゼロ(カーボンニュートラル)の目標を採択、または検討している。しかし、温暖化対策としてより重要なのは、2030年目標といったより短期の目標であるとCATはいう。
気候変動サミットでは、日本は2030年度までの温室効果ガスの削減目標(2013年度比)を従来の26%削減から46%削減へと大幅に引き上げた。また米国も、2005年比で26~28%削減という従来の目標を50~52%の削減へと大幅に引き上げている。両国ともに大きな決断をした訳だが、CATによると、パリ協定の1.5℃目標達成には、日本の場合は13年度比60%以上、米国は2005年比57~63%の削減が必要だという。目標達成に向けたハードルは、どんどん高くなっていくばかりだ。
温室効果ガスの削減目標の起点となる基準年は各国で異なるが、日本では基準年の2013年から2019年までの温室効果ガスの排出量は、13.6%削減されている。この削減幅は、欧米諸国と比べれば小さい。しかし、年率換算でみれば、2.4%の削減と欧米諸国を上回るペースでの削減となっている(図表)。これは、エネルギー効率(総エネルギー供給÷GDP)の向上と東日本大震災以降の発電における代替エネルギーの活用拡大によるものだ。まだ期間は短いが、日本でも温室効果ガス削減の効果はしっかりと表れている。
(図表)主要国の地球温暖化ガス排出量削減目標
他方、2030年までの日本の温室効果ガスの削減目標の幅は、欧米と比べて幾分小さ目だ。年率換算でみても同様である。11月に英グラスゴーで開催予定の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に向けて、日本に対してより高い削減目標を検討するよう求める声は高まる可能性もあるだろう。日本政府は、かなり思い切って2030年までの削減目標を表明したが、さらに高い目標を求められることで、取り組みの意欲がむしろ削がれてしまうことがあってはならないだろう。数値目標よりも、取り組む姿勢、意欲が最も重要であるからだ。
CATの予測値からもうかがい知れるように、温室効果ガスの排出量・濃度と地球の平均気温との関係は、それほど精緻に科学的に算出されてはいないのだろう。また、気温と気候変動との関係についても、不明確な部分も多く残されているはずだ。この点から、科学で裏付けされた完全な温室効果ガス削減量の目標、あるいは気温の目標は存在しないのだろう。しかしながら、温室効果ガスの排出量と気温、そして海面上昇は気候変動などの問題との間に強い因果関係があることについては、疑いの余地はないのではないか。
この点から、目標達成の実現可能性などに一喜一憂するよりも、常により高い目標達成を目指す機運を高め、世代を超えて長期にわたりそれを維持、継承させることが非常に重要だろう。パリ協定の目標設定も、そのような考え方に基づいている。参加国がそれぞれ最大の努力で可能な削減目標を5年ごとに提出し、それを集計したうえで、パリ協定の目標に沿っているかを検証する報告書が作成される。各国はこの報告書を受けて、次の削減目標の深掘りを検討することになる。こうしたプロセスが後世にわたって繰り返される中で、いずれ温室効果ガスの削減量が実質ゼロに達することを目指す仕組みだ。目標は常に修正されていくのである。
日本では、企業の地球温暖化対策の取り組み姿勢はかなり積極化してきているが、国民の間での認識、理解はまだ十分ではないかもしれない。地球温暖化対策の取り組みが一時的なものに終わってしまっては、長期的な効果は期待できない。それは持続的な成長を損ねてしまうだろう。
日本でも、地球温暖化対策の取り組みや目標をしっかりと法制化、制度化する、あるいは啓発活動などを行うことを通じて、後世へとしっかりとつなげていくことが何よりも重要だろう。