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中銀デジタル通貨(CBDC)と金融包摂

2021/05/14

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中銀デジタル通貨にも金融包摂の観点

フェイスブックが2019年6月に新たなデジタル通貨・リブラ(現ディエム)の発行計画を発表した際に、その社会的意義として強調したのが、多くの人が利便性の高い金融サービスを受けられるようにする、金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)の促進であった。

世界銀行の調査(2017年)によると、世界で17億人の成人が銀行口座を持っていない、いわゆるアンバンクト(unbanked)である。これは、世界の人口のおよそ4人に1人に相当する。

他方、フェイスブック関連のアプリの利用者は27億人で、世界の人口のおよそ3人に1人に相当する。銀行口座を持っていなくても、スマートフォンを持っている人は多いことから、フェイスブック関連のアプリ上でリブラ(現ディエム)を利用できれば、金融サービスを新たに利用できるようになる人が一気に増えることが期待されたのである。世界の金融当局からの強い批判を受けて、リブラ(現ディエム)計画はその後、大きな軌道修正を余儀なくされたが、金融包摂を促すという視点は間違いなく正しかった。

新興国の中央銀行が中銀デジタル通貨の発行を検討する際にも、その大きな狙いの一つに、この金融包摂の促進という観点がある。民間の銀行サービス、あるいは民間デジタル通貨では、金融包摂を十分に促進できていないため、より多くの人が利用できるように設計された中銀デジタル通貨の発行が検討されるのである。

他方で先進国では、銀行口座を持っていない人は多くないため、アンバンクトの救済という観点から、中央銀行が中銀デジタル通貨の発行を検討することは多くないだろう。

しかしながら先進国においても、国民のニーズに応えた利便性の高いサービスが民間によって十分に提供されていない場合には、それを補完する目的で中銀デジタル通貨の発行が検討される、という側面もある。

現金と同様の「ユニバーサルアクセス」を狙う

中国では、アリペイとウィーチャットペイがスマートフォン決済(QRコード決済)を二分しており、大多数の国民がそれらを利用している。キャッシュレスの拡大を通じたユーザーの利便性向上、という観点からすれば、中国では中銀デジタル通貨を発行する必要はないようにも思える。それでもデジタル人民元の発行をするのには、人民元の国際化を進めて米国の金融覇権に挑戦することや、アリペイを提供するアント・グループなど金融プラットフォーマーの影響力を低下させる狙いがあるだろう。

他方、先進国では、中国のように民間が提供するスマートフォン決済が、国民の間に広く浸透する状態には至っていない。日本では、スマートフォン決済サービス(QRコード、バーコード)の利用者が必ずしも多くない中、それを提供する多くの決済事業者が乱立しているのが現状である。

特定のサービスのユーザーが増えると、それを導入する販売店が増え、その結果、どこでも広くスマートフォン決済が利用できるようになってユーザーの利便性が高まる、といった好循環が生じてもおかしくないところだ。いわゆる「ネットワーク効果」である。

しかし実際には、日本はそうした状況には未だ至ってない。日本銀行などが理想と考えるのは、スマートフォン決済などのデジタル通貨が、現在の現金と同様に、いつでも、どこでも、誰でも使える「ユニバーサルアクセス」を持つということだ。

そこで、民間のデジタル通貨、スマートフォン決済サービスを「補完」し、ユニバーサルアクセスを強化するという観点から、中銀デジタル通貨の発行の是非が議論されているのである。ここでいう補完とは、システム障害などで民間サービスに支障が生じる場合や、収益性の悪化で民間業者がスマートフォン決済サービス事業から撤退するような場合でも、デジタル通貨を利用したいという国民のニーズを中銀デジタル通貨によって満たし続けることができる、ということを意味する。

さらに、民間での異なるスマートフォン決済サービス同士が連携し、相互運用性(互換性)が確保されれば、どこの店でもスマートフォン決済サービスを利用できるというユニバーサルアクセスに近付く。そのため、民間サービスの媒介の役割を果たすように中銀デジタル通貨を設計していくことも検討されている。これも民間サービスの補完である。

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