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金融機関の気候変動リスク管理と当局の新たな監督方針

2021/06/04

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地球温暖化対策に求められる金融機関の大きな役割

2021年1月から開かれている金融庁の「サステナブルファイナンス有識者検討会」は5月28日の第7回会合で、「持続可能な社会を支える金融システムの構築」、と題する報告書案(注1) を公表した。そこには、金融機関の気候変動リスクに対する金融庁の考え方とともに、同リスクを踏まえた今後の監督の方針が示されており、金融機関にとっては重要な情報となっている。

金融機関が投資、融資を判断する際に、気候変動リスクがそれに適切に反映されていなければ、将来リスクが顕在化した際に、市場が大きく混乱する可能性が生じてしまう。そのため、金融当局ネットワーク(NGFS)やバーゼル銀行監督委員会においては、気候変動リスクの管理手法についての議論が進められている。

金融機関は、温暖化ガスを多く排出する産業・企業向けの融資を既に多く抱えている。その中で、温暖化ガスの排出量削減に資するような新たな投資に対する融資など、新規のビジネスにお金を回すこともまた要請されている。いわば「二正面対応」である。

温暖化ガスの排出量削減に資する投融資を行うためには、金融機関が取引先の環境面での課題を十分に理解し、対話を通じてそれを解決するための提案ができるようになることが求められる。それには、金融機関自らがノウハウの蓄積、スキルの向上、分析ツールの開発を主体的に進める必要がある。

また、国内でもいずれカーボンプライシングが制度化される可能性がある。その際には、新たな技術によって削減される排出量の市場価値を定量的に測定することで、新たな技術や設備に対する投融資の事業価値を正確に評価することも、金融機関には求められるようになるだろう。

共通シナリオを用いたシナリオ分析

金融機関におけるリスクは、主に信用リスク、市場リスク、流動性リスク、オペレーションリスクの4つに分類される。気候変動リスクは、これに加わる新たなリスクなのではなく、4つの分類それぞれに含まれている。それぞれのリスクを増幅する「リスクドライバー」の役割を果たすものだと言える。

気候変動リスクは、その期間が長いことや不確実性が高いことが、他のリスクと比べた場合の特徴である。そのため、過去のトレンドや現在の社会経済構造が変わらないことを前提に考え、既存のリスク管理手法では捉えられない面がある。そこで同報告書は、気候変動に関する中長期的なシナリオを複数用いた「シナリオ分析」が有効、と結論付けている。

それは、金融機関が気候変動リスクに対してより頑健なビジネスモデルを構築することにも役立つ。「気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD: The FSB Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」も、シナリオ分析を提唱している。

まずは大手行からスタート

他国では、金融監督当局が金融機関と連携して、共通シナリオを用いたシナリオ分析を実施する動きが広がっている。金融庁も中長期的には金融機関がシナリオ分析を気候変動リスクへの対応に活用できるよう、その手法や活用のあり方に関わる議論を進めていく方針だ。

具体的には、まず大手の金融機関を対象に、共通シナリオを用いたシナリオ分析を試行的に始め、手法や分析結果の活用方法について知見を蓄積するという。それを踏まえて、適用を他の金融機関へと段階的に広げていく方針だ。大手行から始め、一定期間後に地域銀行にも適用することが想定されている。

産業構造が地域によって異なるため、金融庁は規模や特性に合わせた対応を地域銀行には求める方針だ。投融資先企業への脱炭素化の取り組みを強く促すことも、気候変動リスクに対して本格的なシナリオ分析を進めることも、地域銀行には一定の猶予が与えられそうだ。

しかし、脱炭素化の実現には、大手銀行の主な取引先である大手企業だけではなく、その下請け企業、あるいはサプライチェーン全体での取り組みが必要となる。そのため、すべての銀行の取り組みが重要だ。地域銀行に対しても、先行する大手行と同様の対応がいずれ求められることになるだろう。前倒しでその体制を整えることが重要だ。

(注1)https://www.fsa.go.jp/singi/sustainable_finance/siryou/20210528/01.pdf

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