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BISの中銀デジタル通貨(CBDC)報告書

2021/06/25

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中銀デジタル通貨のメリットを強調したBIS

国際決済銀行(BIS)は、年次報告書の発表を前に、その一部である中銀デジタル通貨(CBDC)についての報告書を前倒しで23日に公表した。タイトルは「中銀デジタル通貨(CBDC):通貨システムとしての可能性」である。

この報告書は、基本的には中銀デジタル通貨のメリットを強調した内容となっている。そこで論じられていることは、昨年10月に中銀デジタル通貨を共同研究するBISと日本銀行を含む7中央銀行が公表した報告書「中央銀行デジタル通貨:基本的な原則と特性」や、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行がそれぞれ公表している報告書との共通点が多い。中銀デジタル通貨の考え方については、共同研究をベースに、主要先進国の中央銀行の間でコンセンサスが形成されてきていることをうかがわせるものだ。

BISは、中銀デジタル通貨は、開かれた決済プラットフォームとイノベーションを促す競争領域を保証するものになる、としている。これは、日本銀行が強調している考えとも近いものだ。中銀デジタル通貨は、民間デジタル通貨を排除するものではなく、それらと補完的となり、また民間デジタル通貨間の相互運用性を確保する手段を提供する、といった点だ。

さらに中銀デジタル通貨は、小口デジタル決済の共通領域を形成する一方、競争領域では、民間デジタル通貨が切磋琢磨しながらユーザーに利便性の高いサービスを提供するという、「二重構造」が想定されている。

プラットフォーマーのデジタル通貨には強い警戒

このようにBISは、中銀デジタル通貨が、民間業者が提供するスマートフォン決済などの民間デジタル通貨と協調することの重要性を説いているが、反面、プラットフォーマーが提供するグローバル・ステーブルコインについては、強い警戒を示している。

それは、国境を越えて用いられる、その匿名性から犯罪に利用されやすい、などが特徴となる。念頭にあるのは、もちろん、フェイスブックが主導するリブラ(現ディエム)計画である。BISは、2019年にリブラ(現ディエム)計画が発表された際にいち早く反応し、中銀デジタル通貨の発行でそれに対抗する、との考えを示した機関である。

中銀デジタル通貨も、国境を越えて犯罪に利用されるリスクを抱えているが、BISは、デジタルIDによる本人認証の仕組みを導入することで、基本的に国内で使われるように当局が管理する仕組みを提唱している。他方で、国境を越えて中銀デジタル通貨が送金、交換されるクロスボーダー取引についても、同報告書で議論が展開されている。

プラットフォーマーのデジタル通貨を強く警戒

中銀デジタル通貨のクロスボーダー取引について、最も関心を持っているのがECBである。ECBが2020年10月に公表した「デジタルユーロの報告書」 で、海外でデジタルユーロが他国の法定通貨にとって代わってしまう、いわゆる「ユーロ化」のリスクを指摘した。それに対応するためにECBは、デジタルユーロを発行する場合に、内外でデジタルユーロの保有額に上限を設け、またデジタルユーロに金利を付けることを検討している。

さらに、将来、各国の中銀デジタル通貨同士の交換によってクロスボーダー取引を行う、新たな仕組みも検討している。その議論を、BISは今回の報告書で発展、深化させたのである。

リブラ(現ディエム)計画などプラットフォーマーが決済業務に参入することに対してBISは強く警戒するが、他方で、各国が強く警戒している中国の中銀デジタル通貨「デジタル人民元」については、それほど警戒すべきではない、との見方を示している。しかしこの点は、先進各国、中央銀行には簡単には受け入れられないだろう。

クロスボーダー決済を巡る中国と先進国の標準争い

各国が、中銀デジタル通貨を用いたクロスボーダー決済(国際決済)の仕組みを将来作っていく可能性を視野に入れるのであれば、中銀デジタル通貨発行のタイミングは各国まちまちであるとしても、今のうちから、国際的な標準化を意識して様式の統一を議論しておく必要がある。

他方、中国は、現在発行準備を進めているデジタル人民元について、その情報をほとんど他国に開示していない。先進各国は、中国が主要国で最も早く中銀デジタル通貨を発行することで、中銀デジタル通貨の事実上の国際標準(スタンダード)を確立してしまうことを警戒しているのである。

BISが報告書で展開した中銀デジタル通貨のクロスボーダー決済の仕組みは、結局は、中国に対抗する先進国側のスタンダードの構築へとつながっていく可能性があるのではないか。

その際、将来的には中銀デジタル通貨を用いたクロスボーダー決済が、「中国型」と「先進国型」に大きく分かれ、両者間で激しい標準争いが生じるのではないか。さらに、クロスボーダー決済を巡る標準争いは、通貨圏を巡る争いとも強く連動していくことになるだろう。

(参考資料)
III. CBDCs: an opportunity for the monetary system, BIS
「BIS、中銀デジタル通貨を全面支持」、2021年6月23日、ロイター通信
「中銀デジタル通貨、国際取引へ3類型、BIS報告書、民間決済網の土台に」、2021年6月24日、日本経済新聞

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