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中国共産党創立100年と改革開放路線修正の帰結

2021/07/01

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「小康社会」実現をアピール

中国の習近平国家主席(総書記)は、7月1日に北京の天安門広場で開かれた中国共産党創立100年の祝賀式典で演説をした。国内的には共産党の下での経済的な成果を強くアピールする一方、対外的には経済面、軍事面、あるいは人権の観点などから中国包囲網を強める米国および他の先進国を強くけん制するメッセージを送った。双方の対立を一段と激化させる新たな火種となる可能性もありそうだ。

さらにこの式典には、習近平国家主席個人の権威を強める狙いもあり、来年予定されている5年に一度の党大会で、異例の3期目に入るための布石の意味もあるだろう。2018年には国家主席の任期の制限が撤廃されている。

米国とその同盟国は、台湾問題に関与する姿勢を強めている。習国家主席は演説で、「台湾問題を解決し中国の完全な再統一を実現することは中国共産党の歴史的使命であり、揺るぎないコミットメントだ」としたうえで、「台湾独立に向けたいかなる試みも徹底的に打破する断固たる行動をとる」とし、軍事面での強硬措置も辞さない姿勢を示して米国および同盟国を強くけん制した。

一方国内問題については、中国共産党の長期目標である「小康社会」を構築したと述べた。ここで言う「小康」とは日本語の意味とはやや異なり、適度にゆとりのある状態を指す。

さらに国内経済について習国家主席は、「半分開放、半分閉鎖から全方位の開放政策へと転換し、経済規模で世界2位に躍進した」と述べている。共産党が主導する改革開放路線、市場経済化によってなし遂げられた高い経済成長をアピールしたのである。しかしこの発言については、国有企業重視、国家統制強化の姿勢を強める習政権の政策方針と矛盾している面も感じられ、その真意を知りたい、との思いを強めた向きが内外に多かったのではないか。

習近平体制下で顕著となった「国進民退」

国有企業の効率性の低さが長らく問題視されてきた中国では、1990年代には、国有企業の民営化などの改革が政府によって進められた。しかし、習近平体制となってからはその改革の勢いも落ち、逆に国有企業の強化が図られている。政府による経済の統制強化の傾向が強まっているのである。これは、習国家主席が今回の演説で言及した、「改革開放路線が高成長を生み出した」との評価とは食い違っているようにも見える。

習国家主席は、共産党の指導体制こそが中国の「奇跡の高成長」をもたらした原動力であるとして、その維持、強化を志向してきた。さらに、米国との間で生じた激しい貿易摩擦によって、中国のハイテク製品の製造に必要な半導体などの部品の海外からの供給が制約を受ける中、半導体の内製化を一気に進めるなど、海外に依存するサプライチェーン(供給連鎖、供給網)を見直して、できるだけ自国内で完結できるように、「自力更生」を進める必要に迫られている。

こうした習国家主席自身の経済思想と外的要因の2つが重なり、政府・党の影響力が直接的に及ぶ国有企業を重視する傾向が強まっていったのである。その反面、民営化などの国有企業改革は進みにくくなった。こうした傾向は、「国進民退」と呼ばれている。

国家統制と市場経済の微妙なバランスは崩れないか

こうした習国家主席の下での「国進民退」の傾向は、近年の中国経済の成功の要因を自ら潰してしまうことになりかねない、という危うさを抱えているのではないか。1970年代末以降の長きにわたる中国経済の高成長は、国家統制と市場経済の微妙なバランスの上に成り立っていた。習国家主席のもとで再び国家統制色が明確に強まる中でも、中国経済がイノベーションに支えられた高い成長ペースをこの先も維持できるのか、不確実性が増してきているように思われる。

国家統制の強化は、製造業での強国を目指す「中国製造2025」年に代表されるものだが、製造業に限るものではない。政府は巨大IT(民営)企業のアリババ・グループ、その傘下のアント・グループなどに対する規制を強化している。アント・グループは事実上の分割に向かっている。政府は、それらが巨額の収益を上げるとともに、大量の個人データを占有することに大きな怖れを抱いた。さらに、巨大IT企業の金融分野における影響力を低下させることで、国有銀行への肩入れを狙っている側面もある。

しかし、そうした中で、アリババ・グループ、アント・グループが進めてきた決済の仕組み、データの利活用などの新しいイノベーションを生み出す力は、削がれていってしまうのではないか。それは、中国経済の潜在力を損ねるリスクをはらんでいるのではないだろうか。

民営企業が主導する形で進んできた近年の中国経済の奇跡の発展は、異例の長期政権を目指す習国家主席の下で、大きな曲がり角を迎えているように感じられる。

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