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日本の安全保障と自由貿易とが交差する中国・台湾の同時TPP加入申請

2021/09/24

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中国のTPP加入申請に触発された台湾の申請

中国の習近平国家主席は、以前よりTPP(環太平洋パートナーシップ)協定に加入の意向を表明していたが、9月16日に正式に加入申請を行った。一方、それから1週間足らずの22日に、台湾はTPPへの加入を正式に申請したと発表したのである。台湾も以前より加入申請の準備を進めていたと説明しているが、中国の申請によってそのタイミングを早めた形だ。

TPPへの新規加入には参加国すべての同意が必要になることから、仮に中国が先にTPP加入を決めれば、中国の反対によって台湾はTPP加入の道を閉ざされてしまう可能性が高いためである。

また、台湾の加入申請は、中国のTPP加入を阻みたい米国政府の意向を反映しているようにも見える。台湾が先に加入を認められれば、中国は加入申請を取り消す可能性が高いだろう。台湾は中国の一部であり、国として認めていない中国にとって、一つの国際協定の中で中国と台湾とが対等に肩を並べることは認められない。また、現在のように、台湾と同じ立場で加入申請を行うこと自体、中国にとっては耐え難いことだろう。23日に中国人民解放軍の軍用機が台湾の防空識別圏に2回侵入した。中国が台湾のTPP加入申請をけん制したのだろう。

中国は、TPP参加国の一部に働きかけて、台湾の加入阻止に動いている。それが上手くいかないと判断すれば、早期にTPP加入を断念する可能性がある。

中国のTPP加入を強く警戒する米国

もともとTPPは、中国を先進国市場に取り込み、先進国のルールに従わせていく手段の一つとして、オバマ政権が主導して議論していた。中国を内部に取り込むことで、変革を進める狙いであった。

2001年に中国のWTO加盟を米国が認めた時も、米国政府には同様の狙いがあった。中国はWTO加盟によって先進国市場によりアクセスでき、それが高成長を支えた。他方で補助金制度、国有企業制度などでは、WTOのルールを十分に受け入れず、中国は「いいとこどり」をしている、と米国政府は批判してきた。中国がTPPに加入すれば、同様のことが繰り返される、さらに、中国はTPPのルールを自ら都合の良い方向へと修正するのではないか、と米国は強く警戒しているのである。そうした懸念は、日本も共有している。

従って、米国は中国のTPP加入に反対である。そして日本に対しても、中国のTPP加入を認めないように、既に水面下で圧力をかけているのではないか。

中国、台湾共に日本が加入を認めるのは難しいか

自由貿易推進を国是とし、TPPを主導する日本は、表面的には中国、台湾共にそのTPP加入申請を歓迎する姿勢であるが、実際にはかなりの温度差がある。麻生財務大臣は、基本的価値を共有し重要なパートナーである台湾の加入申請を手放しで歓迎する意向を示したのに対して、中国については、加入の条件を満たすかどうか疑問、との考えを述べている。

米国は、中国との貿易関係、サプライチェーンを切り離すデカップリングを進めている。その中で、日本など同盟国にも、中国が関わるサプライチェーンの見直しを促している。日本はトランプ政権下で交渉を離脱した米国が、TPPに参加することを強く望んでいる。しかし米国が中国とのデカップリングを進める中では、仮に中国がTPPに加入すれば、米国の加入は遠のいてしまうだろう。米国を優先する日本は、この点からも、中国のTPP加入を認めることはできないのではないか。

他方で、台湾の加入を認めれば、中国を過度に刺激することになり、台湾海峡の緊張を一気に高めるきっかけにもなりかねない。これは日本の安全保障上のリスクを高める。

日本は自由貿易を推進する立場であるが、結局は中国、台湾共にTPP加入を認めるのは難しくなるのではないか。中国と台湾のTPP加入申請によって、日本の貿易政策と安全保障政策が俄かに連動し始めている。

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