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ドイツ連邦議会選挙:16年間のメルケル政権が終焉

2021/09/27

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環境問題が争点となるなか左派政党に票が流れる

16年間にわたってドイツを率い、内外で強いリーダーシップを発揮してきたメルケル首相の後任を決めるドイツ連邦議会選挙が、26日に投開票された。中道左派の社会民主党(SPD)が25.7%と前回2017年の選挙時の20.5%から得票率を上げ、中道のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)に替わって、僅差ながらも第1党に躍り出た。

また、環境政党である左派の緑の党も、前回の8.9%から今回は14.8%へと得票率を高め、第3党となった。CDU/CSUは得票率を前回の32.9%から24.1%に大きく落とし、それがこれら2つの左派政党に回った形である。他方、前回選挙では大きく躍進した急進右派でポピュリスト政党とも呼ばれる、ドイツのための選択肢(AfD)は、12.6%から10.3%へと得票率を落とした。

前回選挙では難民問題が大きな争点になっていた。その際には、難民やイスラエルの排斥を訴えた同党が国民から一定の支持を得た。他方、難民に比較的寛容なメルケル政権の政策は批判を浴び、メルケル首相の退任の原因の一つともなったとみられる。

しかし今回の選挙では、難民問題に対する国民の関心の低下を映して、同党への支持も低下した。今回の選挙では、国際的に議論が高まる環境対策が、最大の論点となっている。その中では、積極的な環境対策を唱える緑の党やSPDに票が集まる傾向も生じたのである。

環境対策では、CDU/CSUと中道右派の自由民主党(FDP)は、企業の競争力を低下させないよう、新たな強い規制、法制度の導入には慎重である一方、緑の党は火力発電、燃料やガソリン、灯油など、すべての化石燃料の利用をゼロにすることなど、より急進的な政策を掲げている。

難航が予想される連立政権交渉

選挙は終了したが、新しい政権の形は当面見えない。議会で過半数を占める政党がないことから、今後数か月間は、連立政権に向けた各党間での交渉が続くことになる。連立政権を主に構成するのは、SPD、CDU/CSU、緑の党、FDP、の4党と考えられる。急進左派の左派党も連立に加わる可能性もある。

SPDと緑の党の組み合わせであれば中道左派の連立政権、CDU/CSUとFDPの組み合わせであれば中道右派の連立政権となり、政策の調整は比較的容易である。ところが、それでは過半数の議席に達しないことから、実際には3党あるいはそれ以上での連立政権となる可能性が高い。そのため、与党間で政策方針に距離がある連立政権となり、政治的な不安定性が残りやすい。

各党のカラーは、SPDは赤、CDU/CSUは黒、緑の党は緑、FDPは黄、となっている。これにちなんで、想定される3つの連立の組み合わせは、各党のカラーにちなんで、以下のような名称で呼ばれる。

① 信号連立政権:SPD(赤)、緑の党(緑)、FDP(黄)
② ジャマイカ連立政権:CDU/CSU(黒)、緑の党(緑)、FDP(黄)
③ R2G(red-green-red)連立政権:SPD(赤)、緑の党(緑)、左派党(赤)

現状では、SPD、CDU/CSUともに連立政権を形成して最大与党の地位を得ることを目指している。連立政権成立の時期は、年末のクリスマスが一つの目途とされる。それまでは、連立政権樹立を巡って激しい争いがSPDとCDU/CSUとの間で繰り広げられよう。さらにその連立交渉の中で、新政権の政策姿勢が次第に浮かび上がってくるだろう。

メルケル首相の退任によって、欧州連合(EU)内でのドイツの地位が低下する懸念があるが、連立政権交渉が難航すれば、その間に生じる政治空白や、先行きの政治情勢の不安定さへの懸念から、新政権のEU内でのリーダーシップ、影響力の低下に対する不安も一層広がる可能性がある。その時点で、金融市場はドイツの政権交代に伴うリスクをより意識するようになるのではないか。

(参考資料)
「ドイツ総選挙、緑の党が躍進 極右は失速」、2021年9月27日、日本経済新聞電子版
「ドイツ総選挙、保守連合が支持率で社民党との差縮める=世論調査」、2021年9月22日、ロイター

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