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岸田新自民党総裁の記者会見

2021/09/30

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9月29日の自民党総裁選で新総裁に選出された岸田氏は、同日夜に記者会見を開き、今後の政策方針などについて語った。

冒頭で岸田氏は、「自分は人の話をよく聞くのが特技」とし、「丁寧で寛容な政治で国民の一体感を取り戻す」と説明した。今までの政権の下では、「人事権を利用したやや強権的な手法で政策をごり押しする」、「国民に対して政策を丁寧に説明していない」との印象を持った国民は、必ずしも少なくなかったのではないか。実際に岸田氏が丁寧で寛容な政治手法を心掛ければ、コロナ禍で一段と高まった国民の政府への不信、政治不信も一定程度緩和されていくことが期待されるだろう。

経済政策については、年末までに数十兆円の経済対策を策定する考えを、岸田氏は改めて示した。衆院選挙を直前に控えて、大規模な経済対策の実施は既に既定路線となっている感が強いが、何が緊急に必要な政策であるかを十分に精査して、対策の中身を慎重に決めていって欲しいところだ。規模、数字先ありきの議論に陥っては良くないだろう。

岸田氏は、経済対策には「国民に協力してもらう雰囲気を作る」狙いがあると述べている。これが、国民に我慢を強いることの代償として国民全員に一律10万円を給付した、一律給付金の再給付を意味するものでないことを願いたい。コロナ禍で打撃を受けた事業者、個人を集中的にそして手厚く支援することが重要だ。打撃を受けていない個人にも給付をすることは適切ではなく、また経済効果も期待できない。いたずらに財政環境を一段と悪化させることにもつながる。

時短・休業要請に応じた飲食業に協力金を支払う現在の事業者支援制度では、支援の対象から漏れてしまう事業者が多く出ているはずだ。総裁選挙戦のなかで岸田氏が指摘していた、業種を制限しない持続化給付金の再導入を経済対策で検討してはどうか。

また岸田氏は政策構想の柱である「成長と分配の好循環」を記者会見で改めて強調した。「成長無くして分配なし」だが「分配無くして成長もない」と説明している。「分配無くして成長もない」の意味は、所得格差が大きいと成長の妨げになる、という意味なのか、それとも、所得分配が企業に偏っていると個人消費が回復しないという意味なのか。他方で岸田氏は、給与の引き上げが企業の投資を促し、成長を高める、との主旨の説明もしていることから、後者の意味が強いのかもしれない。

ただし、賃金を引き上げる試みは安倍政権、菅政権のもとでも何度も実施されてきた。しかしそれらは、経済環境の改善、経済の潜在力の向上には繋がってこなかったように見える。この点を十分に検証する必要があるだろう。

生産性上昇率が高まり、潜在成長率が高まれば、政策の後押しがなくても企業は自ら賃金を大きく引き上げていくはずだ。賃金が上がるような経済環境を作っていくという政策姿勢こそが、まず重要なのではないか。

岸田氏が既に打ち出している多くの成長戦略が、それに貢献することを期待したい。その中でも特に、東京一極集中の是正やデジタル円構想のように、コロナ感染問題を奇貨として推進させていく成長戦略は重要だ。

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