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9月米雇用統計は低調も11月のFRBテーパリングは既定路線

2021/10/11

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米国労働市場に根強く残る供給制約

10月8日に発表された9月分米雇用統計は、やや期待外れの内容となった。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)が11月2~3日に開かれる次回米連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリング(資産買い入れの段階的縮小)の実施を決定する可能性は高いだろう。

9月の非農業部門雇用者増加数は、50万人増程度という事前予想の平均値を大幅に下回る、前月比19万4,000人増にとどまった。しかし、雇用の減少は主に政府部門で生じている。民間部門では31万7,000人増と、8月の33万2,000人増とほぼ同じ水準となり、民間経済活動の改善を裏付けている。また、7月と8月の雇用者増加数はいずれもやや上方修正され、合わせて16万9,000人となった。

感染の再拡大が9月の雇用環境に悪影響を与えたと考えられる。しかし、感染問題で最も打撃を受けやすいレジャー・接客の雇用者数は7.4万人増と前月の3.8万人を上回り、また、小売りの雇用者数は5.6万人増と3か月ぶりに増加に転じている。米国内の感染再拡大問題で、経済活動が一気に失速している訳ではない。一方、半導体不足で減産が続く自動車・同部品での雇用者数は6,100人減少した。しかしこれは米国だけでなく世界全体の問題であり、また需要の弱さを反映するものではない。

失業率は、8月の5.2%に対し9月は4.8%と大幅に低下した。ただしそれは、労働参加率の低下、つまり労働供給が減少したことによるところが大きい。感染リスクを恐れて、働くことを控える人が増えたのだろう。9月には失業給付に対する上乗せ分がすべての州で撤廃されたことから、失業を続けるインセンティブが低下して新規雇用が増えると予想されていたが、実際はそうではなかった。むしろ、職探しをあきらめる人が増えたのである。雇用者増加数は少なめである一方、9月の民間部門の平均時給は、前年同月比+4.6%と大幅に上昇したことは、供給制約による労働需給ひっ迫を裏付けている。

11月のテーパリング開始は既定路線か

金融政策は需要に働きかける政策である。供給制約によって経済活動が下振れる場合、あるいは供給制約によって物価、賃金上昇率が上振れる場合には、それは基本的には金融政策で対応するものではない。従って、今回の雇用統計で新規雇用者増加数は予想を下回ったものの、それは供給制約によるところが大きいことから、既に既定路線になっているFRBの11月のテーパリング実施を大きく妨げることにはならないだろう。

パウエル議長は9月21~22日のFOMC後の記者会見で、雇用環境について、テーパリングの開始を決める基準について、「並外れた、素晴らしく強い雇用統計は必要ない」と述べていた。テーパリング実施のハードルをかなり下げていたのである。

景気減速で利上げ時期の見通しは先送りか

他方、11月にFRBはテーパリングを実施するとしても、利上げの時期はまだ見通せない。金融市場の関心は、既にテーパリングの時期から利上げの時期に移っているのである。金融市場では現在、2022年末頃に0.25%の利上げが織り込まれている。

しかし、今後、中国の景気減速の影響や経済対策の効果が剥落するなかで、米国経済、世界経済にも減速感が広がることが予想される。他方で、FRBが予想しているように物価上昇率が低下に向かう場合には、利上げの時期は2023年後半頃まで先送りされる可能性があるのではないか。その際には、米国の長期金利も再び低下するだろう。

しかし、供給制約が主因であっても、物価上昇率の上振れが来年に入っても収まらない場合には、市場のインフレ懸念を抑え、金融市場の安定を確保する観点から、FRBが利上げの時期を早めざるを得なくる可能性も残されている。そうした場合、金融市場はスタグフレーションへの警戒を一段と強め、株式市場には大きな逆風となるだろう。

(参考資料)
"Jobs Report Keeps Fed Taper on Track for November", Wall Street Journal, October 9, 2021
「アングル:FRBの11月テーパリング開始が視野、雇用統計受け」、2021年10月9日、ロイター通信ニュース

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