フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 デジタル人民元を強くけん制するG7と岸田政権の経済安全保障政策

デジタル人民元を強くけん制するG7と岸田政権の経済安全保障政策

2021/10/15

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

デジタル人民元を強くけん制するG7と岸田政権の経済安全保障政策

G7(先進7か国)財務相・中央銀行総裁会議が13日に米国ワシントンで開かれた。そこで大きなテーマの一つとなったのが、中銀デジタル通貨(CBDC)である。G7は、中銀デジタル通貨に関する「共通原則(公共政策上の原則)」をまとめ、公表した。

ここでは、中銀デジタル通貨のメリットと課題の双方が13の原則として示されている。以下列挙すると、①通貨・金融システムの安定、②法的・ガバナンスの枠組み、③データプライバシー、④オペレーショナル・レジリエンスとサイバーセキュリティ、⑤競争、⑥不正な金融、⑦波及効果、⑧エネルギーと環境、⑨デジタル経済とイノベーション、⑩金融包摂、⑪公共部門との間の決済、⑫クロスボーダー機能、⑬国際開発、となる。

中銀デジタル通貨の実用化にあたりG7は、「透明性」や「法の支配」を重視すべきだと強調し、「金融システムに無害であるよう設計されるべきだ」、規制上の懸念に対処できるまでは「サービスを開始すべきではない」などと指摘している。

中国のデジタル人民元をけん制

G7に参加した日本銀行の黒田総裁は、「他国でも、発行するならこういう形が好ましいということを表明した」と説明する一方、この共同原則は「中国を念頭に置いたものではない」とした。

しかしこれが、中国のデジタル人民元を強く意識したものであることは明らかである。中国は来年2月の北京五輪に合わせて、デジタル人民元を発行し、世界にアピールする可能性がある。他方でデジタル人民元の具体的な設計や今後の計画については明らかにされていない。

デジタル人民元が中国国内での利用に限られるのであれば、他国が口を出す余地はないが、国外での利用拡大を計画しているのであれば、マネーロンダリング等の犯罪、個人データのプライバシー侵害など、他国にも波及する深刻な問題が生じるため、先進国は強く警戒しているのである。

さらに本音のところでは、デジタル人民元の発行が起爆剤となって人民元の海外での利用、つまり人民元の国際化が進み、それがドルの覇権を一気に揺るがすことも警戒しているだろう。ドルの覇権の揺らぎは、先進国にとっては対中国での安全保障政策上の脅威でもある。

しかし、デジタル人民元を意識した「共通原則」は、G20の場では議論されなかった。中国が反発することが明らかであるからだ。「共通原則」が、間もなく発行されるデジタル人民元の設計や先行きの計画に直接影響を与えることはないだろう。

岸田政権発足で高まる中銀デジタル通貨発行の議論

ところで日本銀行は、中銀デジタル通貨の実証研究を進めつつも、「中銀デジタル通貨を発行する予定はない」との説明を続けている。「中銀デジタル通貨を発行しないことも大きな決断」ともしている。

しかし、岸田政権の発足は、日本の中銀デジタル通貨発行の議論を一気に前進させる可能性があるだろう。岸田政権のもとで本格的に開始した経済安全保障政策には、中国のデジタル人民元の発行が、日本の経済安全保障上の脅威との認識があるからだ(コラム「岸田政権の経済安全保障政策を検証」、2021年10月6日)。

小林経済安全保障担当相は14日に、「中銀デジタル通貨には大きな可能性があり、検討を加速していつでも実行に移せる準備が必要だ」との考えを示した。岸田政権のもと、中銀デジタル通貨の発行に向けて、日本銀行に対する政府からの要請は一段と高まる方向にある。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn