フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 基調的な物価の低迷が続くなか独自の道を歩む日銀(金融政策決定会合)

基調的な物価の低迷が続くなか独自の道を歩む日銀(金融政策決定会合)

2021/10/28

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

国内経済に3つの逆風

10月27・28日に開かれた日本銀行金融政策決定会合では、政策変更は行われず、事前予想通りの無風に終わった。

展望レポートでは、2021年度の実質GDP成長率の見通し(政策委員見通しの中央値)は+3.4%と、前回7月時点での見通しの+3.8%から下方修正された。7月時点と比べて新規感染者数は大幅に低下するなど個人消費を取り巻く環境は改善してきたが、それを上回る景気への逆風が新たに生じているため、見通しは下方修正されたのである。

逆風の第1は、不動産部門の不振を映した中国経済の減速傾向である。緊急事態宣言の下で個人消費が低迷する日本経済を下支えしてきた輸出が、そのけん引役を失っている。第2は、東南アジアでの感染拡大を受けた半導体など自動車部品の調達難に伴う自動車の生産減少である。この要因は、今年7-9月期、10-12月期の実質GDP成長率をそれぞれ年率で2%程度押し下げる可能性が見込まれる。第3は、原油価格など資源価格上昇の企業、個人への影響だ。年初からの原油価格上昇と円安の影響により、実質個人消費は1%程度押し下げられると見込まれる。

統計改定の影響で2021年度の物価見通しが大幅下方修正

他方、展望レポートでは、2021年度の消費者物価の見通し(政策委員見通しの中央値)は+0.0%と、前回7月時点での見通しの+0.6%から大きく下方修正された。その最大の理由は、8月の消費者物価統計の基準改定である。ただし、この改定は、より実勢に近い物価の状況に指数が修正されたものである。改定後は携帯電話料金の引き下げが、2021年度の消費者物価上昇率を1.1%ポイント押し下げると日本銀行は推計している。その影響を除けば、2021年度の物価見通しの実勢は1%程度ということになる。

一方、2022年度及び2023年度の消費者物価の見通しはそれぞれ+0.9%、+1.0%であり、2021年度の実勢(携帯電話料金の引き下げの影響を除く)の+1%程度から横ばいが続くことになる。2023年度にかけて潜在成長率を上回る成長が続き、そのもとで需給ギャップの改善が続く見通しのなか、物価上昇率の見通しが横ばいであることはやや不思議である。それは、足元そして2021年度の物価見通しの実勢が、実は1%程度でないからであろう。

物価高は中央銀行の頭を悩ます問題

総務省が発表した9月の全国消費者物価統計で、生鮮食品を除くコア指数は、前年同月比+0.1%であった。他方、生鮮食品とエネルギーを除くコアコア指数は、前年同月比-0.5%である。エネルギー価格高騰の一時的な影響を除けば、足元での物価上昇率の実勢は、コア指数の上昇率よりも0.6%ポイント程度低い。

さらに、他国と同様に、コロナ問題の影響による供給制約などによって物価が押し上げられている部分は、日本でも目立たないながらもあるはずだ。それは、コロナ問題による一時的な現象だとすれば、早晩剥落していくだろう。その場合、真に基調的な物価上昇率はゼロ近傍、あるいはマイナスではないか。それが、2023年度に+1.0%まで一気に上昇する可能性は低い。

足もとのエネルギー価格高騰、物価上昇率の上振れは、各国中央銀行にとっては頭の痛い問題だ。経済の先行きに不安が残る中でも、一部の国の中央銀行は物価高への対応から利上げ(政策金利引き上げ)を決めている。米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は、物価高は一時的現象との認識のもと、利上げ実施には慎重であるが、資産買い入れの段階的縮小、いわゆるテーパリングは年内にも実施する可能性が高い。それは、予想外の物価高によって事実上促されている面もあるだろう。

しかし、物価の低迷が続く日本では、日本銀行が金融政策対応で頭を悩ませる余地はない。追加緩和も引き締めも考えられず、当面の金融政策は現状維持の可能性が高い。その意味で、日本銀行が独自の道を歩んでいるのである。

その結果、日本の為替、長期金利などは、もっぱら海外の金融政策対応への観測によって大きく振られる状況が今後も続くだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn