フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 オミクロン株はFRBの金融政策にどう影響するか

オミクロン株はFRBの金融政策にどう影響するか

2021/12/01

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

パウエル議長はタカ派に転じたのか

オミクロン株の広がりで動揺する世界の金融市場に、米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利上げ観測が追加の打撃をもたらしている。11月30日に行われた議会証言でFRBのパウエル議長は、「次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で、資産買い入れを数か月早期に終了する是非を議論するのは適切だと考える」と発言した。

また、物価高について「一過性」という今までの表現を止め、「当局として何を意味しているのかもっと明確な説明に努める良いタイミングがきた」と説明したのである。さらに、引き続き物価上昇率は来年に大幅に鈍化すると予想しているが、不確実性は小さくない、との主旨の発言をしている。

そのうえで「資産買い入れ1ドルごとに金融緩和の度合いが強まる中で、極めて力強い経済状況と高いインフレ圧力を今や目の当たりにしている」と発言し、テーパリング(資産買い入れの縮小)から、資産買い入れの停止に早期に移行することが望ましい、とのニュアンスを示した。

こうしたパウエル議長の発言は、かなり踏み込んだものだ。これを受けて、ハト派のパウエル議長がタカ派に転向した、との見方が金融市場に広がり、米国市場では株価の下落が促されたのである。

テーパリング加速の可能性

前回の11月のFOMCでは、テーパリングの開始が決定された。その際に11月、12月の資産買い入れ縮小ペース(月額150億ドル)が示され、そのペースが維持されればテーパリングは来年年央に終了することになる。

しかし、その際には、テーパリングのペースは一定ではなく、経済情勢次第で縮小ペースを速めることも遅くすることもできるとし、柔軟に対応する姿勢が示されていた。

他方、11月のFOMC議事録では、テーパリングのペースを速めることの議論が相応に高まっていたことが確認できた。従って、テーパリングのペースを速める可能性を示唆した今回のパウエル議長の発言も、金融市場にとっては全く寝耳に水のことではなかった。

議会証言でのパウエル議長の予想外にタカ派の発言は、彼自身の意見が大きく変わったというよりも、11月のFOMCでの議論を反映したもの、との側面が強いのではないか。

12月のFOMCでは、テーパリングのペースを速める決定がなされる可能性は比較的高いだろう。しかし、それまで2週間の間の情勢次第では、テーパリングのペース見直しが見送られる可能性も十分に残されている。特に、新たな変異株オミクロン株が経済、原油価格、金融市場に与える影響は、依然としてかなり不確実であるからだ。

オミクロン株は物価にどのような影響を与えるか

FF金先市場を見ると、市場は来年6月にFRBが0.25%の幅で利上げ(政策金利引き上げ)を開始し、来年末までに合計2回、0.5%の利上げの実施を織り込んでいる。オミクロン株の問題が浮上する直前は、来年2回の利上げが織り込まれていた。オミクロン株の問題で、利上げ時期への期待は幾分先送りされたのである。そして、今回のパウエル議長の議会証言を受けても、その期待は大きく変わっていない。

米国では、オミクロン株の影響で感染リスクが高まる場合、物価上昇率をさらに押し上げるのか、あるいは押し下げるのかが盛んに議論されている。感染リスクを警戒して、失業者などが労働市場に参加することをより控えれば、供給制約が強まり、物価上昇率を押し上げる。他方、感染リスクが高まることで、消費者が消費全体を抑えることで、物価上昇率を下げる効果も生じる。このように、オミクロン株の影響で感染リスクが高まる場合には、物価上昇率には双方向の影響をもたらすのである。

物価見通しの不確実性が金融政策見通しの不確実性に連動

しかし、感染リスクが低下して個人の消費が高まった今春に、米国では物価上昇率の上振れ傾向が強まった経験を踏まえると、逆に感染リスクの再拡大が起これば、それはトータルで見れば物価上昇率を押し下げることになるのではないか。そうした兆候が早期に見られれば、12月のFOMCではテーパリングのペース見直しは見送られ、また、来年の利上げ見通しもさらに後ずれしよう。そうした可能性もまだ十分に残されているのである。

予想外の物価上昇率の上振れは、コロナ問題を受けた個人の消費行動の変化が促すポストコロナの新たな産業構造への移行期に生じる、いわば「生みの苦しみ」と考えられる。感染リスクが低下し、経済活動が正常化していく中で、産業構造の転換が進み、物価・賃金の上昇率の上振れは次第に収まっていくと予想される。早いケースでは、来年春頃にも物価上昇率の上振れには一巡感が広がる可能性があると考えられるが、不確実性が高いことは確かである。この高い不確実性が、FRBの金融政策の正常化、特に利上げの見通しの不確実性に直結しているのである。

本格的な利上げ局面は2023年か

オミクロン株の影響が大きくなく、物価上昇率の上振れ傾向がさらに長引く場合には、FRBは最短では来年半ばに利上げを開始するだろう。他方、逆のケースでは利上げ開始は2023年までずれ込むだろう。現状ではまだ振れ幅の大きな見通しとなっている。

ただし、利上げ開始時には金融市場に相応の動揺が広がり、それを受けてFRBは追加利上げに慎重になるといった展開も考えられるところだ。その場合、1回おきのFOMCで0.25%ずつ利上げを進めるといった、市場の予見性が高い形での安定した利上げ局面に入る、いわば本格的な利上げ局面に入るのは2023年となる可能性を見ておきたい。

パウエル議長は11月のFOMCでは、テーパリングと利上げは別であり、利上げは全く視野に入っていないと発言していた。パウエル議長自身は、テーパリングのペースを速める決定をしても、利上げを急ぐことを支持はしないだろう。しかし、メンバーのコンセンサスがそちらに傾けば、コンセンサスを重視するパウエル議長、それを受け入れざるを得なくなるだろう。

米国での物価高は国民の大きな反発を招いており、バイデン大統領の支持率低下の一因の一つとなっている。FRBが政府に強く配慮した政策決定は行わないとしても、国民の批判に対しては応える方向に政策は影響を受けるだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn