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続く物価の高騰とFRBの利上げ前倒し観測

2021/12/13

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高まるテーパリング加速の可能性

米労働省が10日に発表した11月分消費者物価指数は、前年同月比+6.8%と39年ぶりの大幅な上昇率となった。変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数も、前年同月比+4.9%上昇と前月の同+4.6%を上回った。この数字自体は概ね予想の範囲内であった。しかしこれによって、12月14~15日に開催される次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で、テーパリング(資産買い入れの段階的縮小)の加速が決められる可能性がより高まったと言える。

米連邦準備制度理事会(FRB)は前回11月のFOMCで、月額1,200億ドルを買入れてきた資産買い入れ策について、11月と12月には購入額を150億ドルずつ縮小するテーパリングの実施を決めた。このペースでテーパリングが続けば、来年6月にはテーパリングは完了し、保有資産の残高の増加は終わる。そして金融市場では、テーパリングと同時に利上げ(政策金利引き上げ)が実施されるとの予想が織り込まれているのである。

金融市場の注目点は、もはや次回FOMCでテーパリングの加速が決定されるかどうかから、その決定やFOMC声明文などから、利上げ時期につながるどのような材料が得られるかに移っている。

利上げ開始は来年3月頃との観測も

前回の2013年以降の金融政策正常化局面では、テーパリングは開始から終了まで10か月を要し、それから利上げ開始まで12か月を要した。それと比べると、今回は正常化過程が急ピッチで進む見通しとなっている。前回と比べて、正常化の局面で生じる金融市場の動揺などへの警戒がFRB内部で薄いことと、足元での物価高騰が予想外に長引いていることがその背景にある。

次回FOMCでは、資産買い入れの縮小ペースを現在の月額150億ドルから、2倍の月額300億ドルへと引き上げれられる可能性が考えられる。その場合、テーパリングは来年3月に終了する計算となる。そしてこの決定を、FRBが利上げを前倒しする意図を示すメッセージ、と金融市場は受け止めるだろう。その場合、利上げ時期の見通しは、来年3月頃まで一段と前倒しされる可能性があるだろう。

付利金利制度のもとでは、資産買い入れ策に左右されずに政策金利の引き上げを行うことが可能である。テーパリング終了前にも利上げが実施されるとの見方まで、この先浮上する可能性もある。

利上げ時期への期待は前倒し、後ずれ双方向に修正の余地

他方、今まで一方的に前倒しされてきた利上げ期待が、逆に後ずれ方向に修正される可能性にも十分に配慮しておく必要があるのではないか。

今年10月をピークに原油価格は下落している。その影響は、直ぐに消費者物価指数全体に、そして数か月後には、エネルギーを除くコアの消費者物価指数にも表れるだろう。一方で、昨年3月に消費者物価指数が大きく上昇を始めたことから、前年比上昇率は3月以降低下しやすくなる。来春頃には、物価高騰にも変化の兆しが見え始める可能性があるのではないか。その微妙なタイミングと、現在の利上げ開始見通しの時期が重なっているのである。

さらに米国経済の成長ペースも、エネルギー関連高騰の悪影響、中国経済の減速、コロナ対策効果の剥落などによって、来年前半に低下を始める可能性が考えられる。物価高騰の一巡と成長ペースの鈍化が、利上げ開始の時期を後ずれさせる可能性がある。

このように、FRBの来年の利上げ見通しには、前倒し方向と後ずれ方向に修正される余地がなお大きい。そうした見通しの変化こそが、米国のみならず日本を含めた世界の金融市場に大きな影響を与えることになる。来年の金融市場の大きな注目点である。

FRBは急速な利上げには慎重か

ただし、利上げ期待の前倒し修正の余地よりも、後ずれの余地の方が大きい。そうした期待の修正が生じれば、金融市場ではドル安・円高、長期金利低下、株高傾向が生じるだろう。

一方で、利上げ時期の前倒しにはもはや限界があるとしても、利上げペースが速まる期待が高まる可能性はあるだろう。しかしその余地はそれほど大きくないのではないか。

現在の金融市場では、FRBは2022年半ばから利上げを開始し、その後は2024年末までに合計で1.5%ポイントの極めて緩やかなペースでの利上げが行われるとの見通しが織り込まれている。金融市場には、物価の高騰が予想外に長引く中でも、インフレリスクを封じ込めるために、FRBが急速に利上げを行うとのイメージはないのである。

そこには、金融市場が、物価の高騰が持続的ではないと考えている可能性、成長が鈍化すると考えている可能性、そしてFRBの利上げは需要を本格的に抑制することを目指すものではなく、当面のところは、市場あるいは企業、個人のインフレ懸念の鎮静化を目指すメッセージ性の強いもの、と考えている可能性があるのではないか。いずれにしても、通常の利上げとは異なる、コロナ後独特の政策正常化の姿が市場では予想されている。

他方FRBにしても、供給側に相応の原因がある現在の物価高騰に、金融引き締めで対応することには無理があることは理解しているだろう。また、急速に利上げを行う場合、その後に物価上昇率が低下すれば、実質金利が大きく高まり、景気に予想外の悪影響を与えることを警戒しているのではないか。こうした点からも、FRB自身も急ピッチでの利上げの実施にはかなり慎重なはずだ。

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