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各国金融政策に温度差を生むオミクロン株とECB理事会の注目点

2021/12/15

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BOE、ECBの政策決定にオミクロン株が影響か

オミクロン株は今週、米国、日本で相次いで行われる金融政策の会合での決定にはほぼ影響を与えないだろうが、その感染拡大が顕著となっている英国及びユーロ圏での金融政策決定には大きな影響を与える可能性がある。地域によって温度差が生じるのである。

感染の拡大が深刻な英国では、来週開かれる会合でイングランド銀行(BOE)が利上げ(政策金利引き上げ)を見送るとの観測が、やや強まってきた。

BOEは、主要中央銀行の中で最も早く利上げを行うと見られてきた。今秋には、年内の利上げがほぼ完全に市場に織り込まれていた。しかし11月の前回会合では、市場予想に反してBOEは利上げの実施を見送り、ポンド大幅安など市場の混乱を生じさせた。それでも近い将来の利上げ期待は残っていたが、11月に利上げに投票していたソーンダース委員が12月3日に、オミクロン株の影響を見極める必要がある、としてさらなる先送りの可能性に言及したことから、年内の利上げ期待はにわかに後退している。

今週16日の欧州中央銀行(ECB)の理事会での決定にも、オミクロン株が影響を与える可能性がある。ECBがコロナ対策として導入したパンデミック緊急買入れプログラム(PEPP)は来年3月に期限を迎える。今回の会合では、予定通りにPEPPを終了させる決定がなされるとの見方が有力であるが、オミクロン株の影響を見極めるために、最終判断を2022年2月まで先送りするとの見方も出ている。

さらに、単純にPEPPを終わらせるのではなく、来年4月以降は新たな資産買い入れの枠組みを考えるべき、との意見がECB内で出ている模様だ。PEPPを終わらせても、従来からの資産買い入れプログラム(APP)は残るが、来年4月以降はその額を増やす案も出ている模様だ。PEPP終了による資産買い入れ額の大幅な減少を避ける、激変緩和措置である。

また、ECBはPEPPで買入れた債券のうち、償還分については「少なくとも2023年末まで」再投資できるとしている。これを最大限利用することで、買入れを一定程度続けることも可能だ。市場の関心は、ECBが来年3月のPEPPの終了を決定するかどうかよりも、来年4月以降の新たな資産買い入れ策に移っているように見える。

ECBはギリシャ国債にも配慮した新たな資産買い入れの枠組みを検討か

さらにこの議論に新たに加わってきたのが、ギリシャである。ギリシャ中央銀行は、来年3月のPEPP終了後も、同国国債を引き続き買入れの対象とするよう、ECBに要請する考えだという。

ギリシャ国債はユーロ圏で唯一主要格付け機関から投資不適格債(ジャンク債)に分類されているため、通常の資産買い入れ策であるAPPのもとでは、買入れの対象となっていない。ECBは2020年3月のPEPP導入時に、ジャンク債の購入を例外的に認め、ギリシャ国債の購入を再開したのである。

しかし、来年3月末にPEPPが終了すれば、ECBによるギリシャ国債の買入れはなくなる。それは、ギリシャ国債には大きな打撃となり、金利を押し上げることになるだろう。ギリシャ国債が投資適格の格付けを得られるとしても、それは2023年の国政選挙後のこと、との見方が多い。そこまで待つことはできないだろう。

そこで、16日の理事会では、来年3月末のPEPP終了後も例外的にギリシャ国債の買入れの決定がなされる可能性がある。それは前出の再投資の枠組みとなるかもしれない。

今週の一連の政策決定では、日本銀行は政策変更を見送る一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は正常化策をさらに進めて、テーパリングの加速を決める可能性が高い。しかしECBは、PEPPの終了を決めて正常化に乗り出す可能性はあるが、その後も新たな金融緩和の枠組みを検討することが求められ、単純な正常化策とはならないのではないか。

それは、日本や米国よりもユーロ圏でオミクロン株の影響がより警戒されていることに加え、各国の複雑な事情を配慮して金融政策を決めなければならない、というECBの特性に根差す側面もあるだろう。

(参考資料)
"Athens to make push for ECB to keep buying its bonds", Financial Times, December 13, 2021

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