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12月米雇用統計発表後もFRBの早期利上げ観測は変わらず

2022/01/11

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労働供給不足の状況が続く

米労働省が7日に発表した12月分雇用統計で、非農業部門雇用者数は前月比19万9,000人増加した。これは事前予想の約42万人増を大幅に下回った。ただし、10月と11月の雇用者数は合わせて14万1,000人上方修正された。他方、失業率は11月の4.2%から3.9%へと大きく改善した。また、12月の平均時給は前月比0.6%上昇し、前年同月比では4.7%の上昇となった。11月の+4.6%に続き、高水準となっている。

12月の失業率は、新型コロナウイルス問題が本格化する前の2020年2月の3.5%にかなり近づいてきている。他方で、非農業部門の雇用者数は、同時期の水準をなお360万人下回っており、雇用回復は道半ばである。このことは、労働供給が制約された状態が依然として続いていることを示している。

11月時点での自発的な離職者は452万7,000人と過去最多を記録している。感染リスクが高い小売、医療、娯楽サービスなどの分野で、そうした傾向が顕著にみられる。失業手当の上乗せ制度が2021年9月に打ち切られた後も、人々は、感染リスクへの警戒より好条件での再雇用を狙って様子見をする傾向を続けているのである。

早ければ3月にも利上げとの見通し

非農業部門雇用者増加数は事前予想を下回ったが、労働需給の一段のひっ迫がインフレ圧力を高めている構図に変わりはない、との考えから、早ければ今年3月にも米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ(政策金利の引き上げ)に踏み切るとの見方が維持されている。雇用統計を受けて、米国財務省証券10年利回りは、1.8%台に乗せ、2020年1月以来、つまり新型コロナウイルス問題が本格化する以前の水準にまで上昇した。

5日に公表された昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨によると、参加者らは高水準のインフレに対する懸念を強め、2022年の利上げ予定時期を前倒しして3月にも利上げを始めることを検討していることが明らかとなった。また一部の参加者は、利上げ開始後の比較的早い段階で、8兆7,600億ドル(約1017兆円)規模のバランスシートの縮小に着手すべきとの考えも示した。

FOMCのメンバー及び金融市場は、2022年に3回の利上げを予想している。テーパリング(資産買い入れの段階的縮小)は3月に終了する見通しだが、間髪を入れずにFRBが利上げに踏み切るとの見通しが高まっている。さらに利上げを複数回行った後に、バランスシートの縮小に着手するとの見通しも強まっている。その時期は早ければ今年の年央頃との見方である。

正常化プロセスは前回と比べて著しく急速

こうした金融政策の正常化のプロセスは、前回と比べて著しく急速なものである。2013年12月のテーパリング開始から終了まで10か月、それから14か月後に政策金利の引き上げを始め、そこからさらに22か月後にバランスシートの縮小が始まった。仮に、今年6月にバランスシートの縮小が始められるとすると、テーパリング開始から7か月となる。これは前回の4年弱(46か月)の7分の1程度のペースである。

正常化のプロセスが前回と比べて著しく速くなる見通しであるのは、物価上昇率がかなり上振れていることが第1の理由である。さらに、第2に、前回のリーマンショック後の景気回復よりも、前回のコロナショック後の景気回復の方が順調であるとの見通しがあるだろう。そして第3に、正常化の過程での金融市場の混乱のリスクに対して、FRBが今回は比較的楽観的であることが挙げられるのではないか。前回は、FRBがテーパリングの可能性を示唆したことが、新興国からの資金の巻き戻しなど、金融市場を混乱させるテーパータントラムを生じさせた。

FRBはバランスシートの迅速な縮小に自信

12月のFOMC議事要旨によると、バランスシートについて参加者が、前回バランスシートの縮小を行った2017~19年と比べ、利上げ開始後からより早い時期に、かつ速いペースで縮小を進めることができると考えられていることが明らかになった。それを支えるのが、FRBが昨夏に創設した「常設レポ・ファシリティー(SRF)」である。SRFは、金融機関が米国債を担保として預け入れることでFRBから融資を受ける制度である。ただしこれは、バックストップの制度であり、今のところ利用実績はない。しかし、実際に利用されなくても、いざというときにFRBから資金を借り入れ資金を確保できるということが金融機関の安心につながっている。金融機関が不測の事態に備えて現金を手元に抱えておく必要性が薄れるため、銀行の中銀当座預金の水準を低く抑えることができる。

FRBがバランスシートを縮小させ、金融機関の中銀当座預金が減少していく過程では、不測の事態に備えて銀行がFF市場で資金調達傾向を強め、その結果、FF金利がFRBの誘導目標から上振れるといった混乱が生じるリスクがある。しかし、SRFを新設したことでそのリスクが低下したため、迅速にバランスシートを縮小させても大きな混乱は起きないとFOMCのメンバーの一部は考えているのである。

利上げ開始と並んで、バランスシートの縮小は、次回FOMCで大きなテーマとなるだろう。

FRBの正常化は手探り

ただし、このように順調にFRBの正常化が進んでいくかどうかは明らかではない。金融市場の動揺と景気情勢の悪化が、正常化のスピードを抑える可能性がある。足もとでは、FRBの利上げ観測と米国の長期金利の上昇を受けて、ハイテク株が下落するなど、金融市場に動揺の兆しも見られ始めている。FRBが利上げやバランスシート縮小を続けていく中で金融市場の動揺が強まれば、FRBは正常化に慎重になるだろう。

他方、米国経済に減速傾向が見られた場合にも、FRBの正常化ペースは鈍化するだろう。現在、米国の賃金上昇率は消費者物価上昇率よりも前年比で2%程度低い状況である。こうした実質賃金の悪化傾向が長期化するとの見通しが強まれば、個人消費にはかなりの逆風となるだろう。また、中国不動産不況の影響や米国でのコロナ経済対策の効果の剥落が、今年の米国経済を下振れさせる可能性もある。さらに、FRBの利上げ策が、予想以上の景気の下振れにつながる可能性がある。

一方で、物価の高騰が予想以上に長期化すれば、長期金利の上昇など金融市場の動揺を抑える観点からも、FRBは景気を犠牲にしても利上げやバランスシート縮小を加速化することを余儀なくされる可能性も出てくる。そうしたなかで、利上げを加速すれば、逆に金融市場の動揺を増幅させることも伴い、景気にかなり悪影響を与えることになるだろう。

そもそも物価の高騰の背後には、金融政策の影響が及ばない供給側の要因によるところも小さくない。その中での正常化策はまさに手探りであり、その効果の影響は不確実性がかなり高いはずだ。

(参考資料)
"Derby’s Take: Fed Minutes Flag Importance of Money Markets for Policy Shift", Wall Street Journal, January 7, 2022
"Jobs Report Likely Keeps Fed on Track for Rate Rise in March", Wall Street Journal, January 8, 2022
「12月の米雇用19万9000人増 市場予測下回る」、2022年1月8日、日本経済新聞電子版

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