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FRBが救世主にはなれないウクライナ情勢による金融市場の混乱:中国の対応も市場の注目に

2022/02/22

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ウクライナ問題は従来以上に金融市場のリスクが高い地政学イベント

地政学リスクの高まりが経済や金融市場に与える影響は、過去の例では比較的短期的な現象に終わることが多いが、今回のウクライナ情勢は、従来以上に金融市場のリスクが高い地政学リスクと言えるのではないか。コロナ問題を受けた未曽有の物価高騰、それへの対応として米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げ(政策金利引き上げ)見通し、という2つの大きなリスクによって、金融市場の地合いは既に不安定である。それにウクライナ問題が加わってくる。

ロシアが明確なウクライナ侵攻を実施し、先進国が対ロシアの経済制裁を実施すれば、ロシアが報復制裁で欧州への天然ガスの供給を絞る可能性がある。それは、エネルギー価格全体のさらなる高騰を招くだろう。そして、FRBによる利上げを加速させる可能性も出てくるのである。

つまり、エネルギー大国であるロシアが当事者であるウクライナ問題は、既にある金融市場あるいは世界経済にとっての大きなリスクをさらに増幅する性格を持つのである。

そのため、経済や金融市場に与える影響は、今回の事態と深く関わる2014年のロシアのクリミア併合時と比べても、格段に大きくなることを覚悟する必要があるのではないか。

FRBは金融市場の「救世主」になれない

さらに重要なのは、金融市場に大きな衝撃を与えるようなイベントが発生する際に、通常はFRBの緊急金融緩和が金融市場の安定回復のきっかけになることが期待されるが、今回はそれは期待できないことだ。

異例の物価高騰が続く中、尋常ではないほどの金融市場の混乱が生じない限り、FRBが緊急金融緩和を実施する可能性は低い。今回はFRBが「救世主」になれないこと、FRBに頼ることができないことが、金融市場の潜在的な不安定性を高めているのである。

ロシアはウクライナ東部の2地域の独立を承認

プーチン大統領は21日に、分離派が支配するウクライナ東部の2地域の独立を承認した。さらにロシアが両地域と相互支援に関する合意に署名した後に、ロシア軍は現地での平和維持活動に関わっていくとした。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻という状況に、事態はかなり近づいてきたのである。

これを受けて、東京市場では22日、株価が大幅に下落する一方、リスク回避の円高が進んでいる。また、海外市場ではWTI原油先物価格が1バレル95ドル程度と直近の高値にほぼ並ぶ一方、リスク回避で金が買われ、1オンス1,900ドルを再び超えてきた(コラム「ウクライナ地政学リスクヘッジで買われる金と売られる仮想通貨」、2022年2月22日)。

さらに、為替市場ではルーブル安が進んでいる。ルーブルは1998年のロシア危機、2008年のグルジア侵攻、2014年のクリミア併合の際に大幅に下落してきた。後者2つは、先進国からの経済制裁がルーブル下落を促したのである。今回も、先進国の対ロシア経済制裁への警戒が、ルーブル安の背景にある。

過去のルーブル安の苦い経験から、近年ロシアは、通貨の安定のために努力を重ねてきた。その一つが、原油の輸出収入などを使って積極的に外貨準備を積み上げてきたことだ。それは、ルーブル安の際に、市場に介入してルーブルを買い支えるためのものである。

制裁措置によるロシア通貨危機への警戒も高まる

ただし、今回予想される先進国の対ロシア経済制裁は、依然と比べてかなり厳しいものとなることが予想され、その結果、ロシアが簡単には通貨防衛をできない可能性が考えられる。米国はロシアの銀行のドル調達を制限する措置を検討している。その場合には、為替市場におけるルーブルの信認は大きく低下し、大幅な通貨安が生じることになるだろう。それは、輸入物価の高騰を通じて、ロシア経済に非常に大きな打撃を与えることになるはずだ。

為替のトレーダーは、ロシア・ルーブル急落に伴う大幅損失をオプションでヘッジしようとしている。21日のオプション市場で、通貨安リスクを反映するリスクリバーサル(25デルタ)は急上昇して10.8%と、2015年以来7年ぶりの水準に達した。このルーブルのリスクリバーサルは非常に高く、ボラティリティが大きいトルコ・リラの約2倍、ブラジル・レアルや南アフリカ・ランドの5倍の水準にあるという。市場はルーブル安進行への警戒感を急速に高めているのである。

世界経済は既に物価高騰と急速な利上げの逆風に見舞われているが、ウクライナ情勢は、そうしたリスクをさらに増幅させ、さらにロシアの通貨・経済危機を生じさせる可能性がある。

中国がロシアを支援するかどうかが重要に

金融市場は、ロシアによるウクライナ軍事侵攻といった純粋な地政学リスクよりも、その後の経済制裁をきっかけとして生じる、物価高やFRBの利上げ加速のリスク、ロシアの通貨危機のリスクに大きな関心を持っている。

ただし、より中長期の視点に立てば、経済制裁を受けたロシアを中国が明確に支援するかどうかが非常に重要となる。中国が支援に乗り出す場合には、中国と米国との関係は一段と悪化し、中国とロシアが経済、金融、そして安全保障面でも結束を強め、世界が二分されていく、まさに「新冷戦」の起点となってしまう可能性があるのだ。金融市場は、目先のウクライナ情勢の後ろに、そのような大きなテーマを感じ取っているのではないか。

(参考資料)
"Hedging the Russian Ruble Hasn’t Been so Expensive Since 2015", Bloomberg, February 22, 2022

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